亡いものねだり
それからも僕と穂香は色んな屋台を回りながら人混みを進んでいった。


射的、型抜き、水風船釣り、ワッカ投げ……縁日の定番はほとんど遊び尽くした気がする。


どれもその気になればリベンジマッチ出来るものばかりだったが、僕はあえて罰ゲームを提案しなかった。


穂香もそれを察して、勝負を仕掛けてくることもなくただ純粋に屋台を楽しんだ。


やがて屋台を進んでいくと神社の前の広場に出た。


広場の中央にはお神輿が鎮座しており、周囲のベンチには人が集まって談笑に花を咲かせている。


「ちょっと休憩しよっか」



顔より大きいジャンボ綿あめを持った穂香(食べている間ずっと「綿あめは軽いから実質ゼロカロリー」と唱えていた)が、空いているベンチを指した。


二人で並んで座ると、どれくらいの距離感が適切なのか急に気になってくる。


どうやら穂香も気にしている様だったが、結局綿あめで顔を隠しつつ思いきり距離を詰めた。


お互いの体が今にも触れ合いそうになるくらいまで密着する。


おい……それズルいだろ。


「綿あめ、早く食べなよ」



僕が意地悪すると、綿あめの向こうから慌てて声が飛んできた。


「べ、別にいいでしょ! 味わってるんだから」

「よくないよ。だって穂香の顔が見えない」



すると、ゆっくりと穂香は綿あめから赤くなった顔を上げた。


「海斗、キライ」

「じゃあ罰ゲームはナシだね。嫌いな人から好きな所言われても嬉しくないだろ」

「じゃあキライじゃない」

「へーそうなんだ。僕も近所のおばさんはキライじゃないなあ」

「もうなんなの……これじゃ私が罰ゲーム受けてるみたい」



穂香は悔しそうにキュッと目を瞑って、消え入る様に呟いた。


「海斗のことが、スキ……これでいい?」

「ごめん、耳にゴミが」

「海斗のことがスキって言ったのおッッッ!」

「うわっ⁉」



いきなり広場中に響き渡る声で叫んだ穂香に仰天し、僕も思わず叫んでしまう。


しまった……やり過ぎたみたい。


「まだ聞こえない⁉ だったらいくらでも言ってあげようか?」

「わ、分かったから! 充分に伝わったから!」



僕たちの様子に、周囲の人々が顔色を変えて騒めき始めている。


祭りの関係者と思しき人たちが『君! どうかしたのかい⁉』と心配そうに近づいてきたところで、僕は穂香に叫んだ。


「穂香、一旦ここから離れよう! こっちだ!」

「う、うん!」
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