亡いものねだり
蛍が織りなす幻想的な光景を前に、穂香は思わず言葉を失う。


「そうだね。偶然にしては出来すぎだ」



そう言って、僕は蛍を眺める穂香の姿を見つめる。


飛び交う蛍の光と鏡の様な小川の煌きが、振り袖姿の彼女を壮麗に映し出す。


本当は——蛍の光になんて僕の眼中にないんだ。


目の前にはもっともっと、この世で一番光輝いているものがある。


それをずっとこの目に焼き付けたくて。


僕は彼女にそっと手を伸ばした。一度でいいから――彼女に触れてみたくて。


それに気づいたのか、穂香は僕を振り返って儚げに微笑んだ。



「どうしてそんな顔をするんだよ」



どうしようもなく胸が苦しかった。



「そんな顔で……僕を見ないでよ」



彼女は僕の言葉を無視して静かに告げた。


「ねえ、そろそろ罰ゲームをしましょう? あれから随分考える時間はあったよね」

「考える必要なんて最初からないよ。もう最初から決まってたから」

「え? だったらどうしてあの場で言わなかったの?」



無数の煌きに照らされた顔に戸惑いを浮かべる穂香。


彼女に近づいてはっきりと答える。


「三つなんかじゃ到底収まらないからだよ。どれくらい長くなるか分からない。だから、二人きりになりたかった」

「海斗……」



穂香が、大きな茶色の瞳を潤ませる。


もう、あとちょっとで手と手が触れ合う距離。


「じゃあ、二人だけの『罰ゲーム』を始めようか。きっと長くなるよ」

「私……全然平気だよ? ううん、海斗といられるならここで永遠に――」
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