亡いものねだり
「どうしてそんなことを言うんですか⁉ 海斗はそこにいるもん! 先輩はやっぱり、海斗と私の関係を引き裂きに来たんですね、そうでしょ⁉」
「落ち着け穂香。これを見ろ」
泣き叫ぶ穂香に、瀬川先輩はポケットから紙きれを取り出して突き付けた。
「……これ……どうして……⁉」
それは――滲んだ字で直筆された一枚の遺言書だった。
そこには、僕が最後の瞬間に伝えたかったこと全てが記されている。
「穂香のご両親のお前の部屋で見つけたものだ。情緒不安定な娘を気遣ったご両親が、黙って俺の元に持って来て下さった」
沈黙の後、瀬川先輩が神妙な面持ちで告げる。なるほど、そういうことだったのか。
「……遺言書……? 言っている意味が分かりません。だって海斗はここにいます!」
「海斗君は最後、こう綴っている。『僕のことをずっと覚えていて欲しい』と。お前は優し過ぎる子だ、だからこんな――」
「それ以上聞きたくないッ!」
お守りを抱きしめて慟哭する穂香を……瀬川先輩はそっと抱きしめた。
「⁉」
「俺はお前まで失いたくない。俺が来なかったらお前はここでどうなっていた⁉ こんなことを本当に海斗君が望んでいると思うのか⁉」
「海斗……」
「海斗君はお前に幸せになって欲しいと願っているはずだ。その思いを踏みにじって本当にいいのか?」
穂香は一瞬、僕の方を縋るような目で見た。
僕は静かに微笑んで、ゆっくり目を閉じた。
「でも私、決めたの……海斗との最後の約束、絶対守るって……」
震える声を絞り出す穂香に、先輩は有無を言わさぬ勢いで、
「だったら俺がそんなもの忘れさせてやる!」
「あっ……!」
素早く穂香の手からお守りを奪うと、それを思いきり川に投げ捨てた。
「落ち着け穂香。これを見ろ」
泣き叫ぶ穂香に、瀬川先輩はポケットから紙きれを取り出して突き付けた。
「……これ……どうして……⁉」
それは――滲んだ字で直筆された一枚の遺言書だった。
そこには、僕が最後の瞬間に伝えたかったこと全てが記されている。
「穂香のご両親のお前の部屋で見つけたものだ。情緒不安定な娘を気遣ったご両親が、黙って俺の元に持って来て下さった」
沈黙の後、瀬川先輩が神妙な面持ちで告げる。なるほど、そういうことだったのか。
「……遺言書……? 言っている意味が分かりません。だって海斗はここにいます!」
「海斗君は最後、こう綴っている。『僕のことをずっと覚えていて欲しい』と。お前は優し過ぎる子だ、だからこんな――」
「それ以上聞きたくないッ!」
お守りを抱きしめて慟哭する穂香を……瀬川先輩はそっと抱きしめた。
「⁉」
「俺はお前まで失いたくない。俺が来なかったらお前はここでどうなっていた⁉ こんなことを本当に海斗君が望んでいると思うのか⁉」
「海斗……」
「海斗君はお前に幸せになって欲しいと願っているはずだ。その思いを踏みにじって本当にいいのか?」
穂香は一瞬、僕の方を縋るような目で見た。
僕は静かに微笑んで、ゆっくり目を閉じた。
「でも私、決めたの……海斗との最後の約束、絶対守るって……」
震える声を絞り出す穂香に、先輩は有無を言わさぬ勢いで、
「だったら俺がそんなもの忘れさせてやる!」
「あっ……!」
素早く穂香の手からお守りを奪うと、それを思いきり川に投げ捨てた。