運命ノ黒イ糸
☆☆☆

あたしは輝明に連れられて、夜の道を歩いていた。


『ついてこい』と言われたら、もう拒否することはできなかった。


看護師さんたちの目をかいくぐり病院へ出た時は死を覚悟した。


「俺、今一人暮らしなんだ」


前を歩く輝明が言う。


「お兄さんは一緒じゃないの?」


「兄貴はもう結婚してる。両親は海外赴任中」


そう言う輝明は楽しそうで、今にもスキップしだしそうだ。


一体、これからあたしはどうなるんだろう?


自分の足首から伸びている黒い糸は、囚人の手錠のように見えた。


ガッチリと結ばれていて、決して離れることはできない。


「ところで朱里ちゃん」


不意に輝明が立ち止まり、振り向いた。


その顔が月明かりに照らされ、笑っているのにどこか寒気がした。


「な、なに?」


「俺と別れるなんて嘘だよな?」
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