無自覚片思いの相手は策士な肉食系でした
卒業まで後二年もある、それまで我慢できるだろうかと朝陽は帰り道でつい先程まで抱き締めていた真未の感触を思い出して苦笑した。

初めから結婚を意識しない生半可な気持ちで付き合う気がなかったのは本当だけれど、もっとじっくり時間をかけてからプロポーズするつもりだった。
けれど二人きりの時に見せる真未の可愛さに我慢できず、今すぐ籍だけでも入れて自分だけのものにしたくなってしまう。

「勇人兄さんの気持ちがわかるな……」

姉である陽菜に、交際を申し込む前に不特定多数の前でプロポーズをするということをやってのけた義理の兄を思い出していたらポケットに入っていたスマホが鳴り出したのに気付き歩みを止めてゆっくりとした動作で取り出すと、表示された名前にふっと笑って指を滑らせ耳に当てた。

「なに、どうしたの?」

『どうしたのじゃないわよ!すっごくビックリしたんだからっ!』

なんのこと?と惚けたふりをしていると、公園でのことだと怒られた。

『堀原さんに彼女だって聞いたけど、いつからそんな関係になったの?あの人って岩沢さん……あのパン屋さんのコックさんでしょ?怪我は大丈夫……て言うか知り合いだったの?』

教えてくれたらよかったのに!とこっちが話す暇を与えないくらい話している陽菜は珍しく興奮しているようだった。

「コックじゃなくてブーランジェだって。
付き合い始めたのは怪我したときから、その怪我はもう治ってるよ。
元々高校の同級生で大学も一緒だったんだけど、あそこでバイトしてるのはあの時始めて知った」

『もう治ってるならパン屋さんに行けば会えるかな……。
あ、あと、どうしても聞いておきたいことがあるんだけど……』

「何?」

『ちゃんと同意の下で付き合ってるんだよね?
無理矢理とか唆したりとかしてないよね?』

「……堀原さんといい陽菜姉といい、俺の事どう思ってるんだろうね?」

え、えっと、それは……。と口ごもる陽菜に苦笑して、今度どうしたら結婚したくなるか聞いてみようかと考えながら止めていた歩みを再び進めた。
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