無自覚片思いの相手は策士な肉食系でした
「岩沢さん、こんにちは」

昼からのバイトが終わり、もう日が暮れそうな時間に裏口から出て表通りに出ると近くから声が聞こえたので顔をそちらに向けたら久しぶりに会った陽菜が何やらそわそわしながら立っていた。

「こんにちは、お久しぶりです」

「久……え?昨日……」

「昨日?どこかでお会いしましたっけ?」

すみません、気付かなかったです。と言うと陽菜は少し俯き何か考えているようだったけど、すぐにパッと顔を上げると、いえ、私の気のせいです。と微笑んだ。

「あの、それよりも聞きたいことがあって来たんですけど……」

「はい、何でしょう?」

「弟……朝陽と付き合ってるって……」

「あ、そうなんです。
すみません、ご挨拶が遅れまして」

「いいえ、私に挨拶なんて!岩沢さんみたいにしっかりした人が朝陽の傍にいてくれると私も安心です。
あの、それで……」

言いづらそうに目をさ迷わせている陽菜を首を傾げて見ていたら、やっと決心がついたかのように口を開いた。

「大丈夫ですか?朝陽に言いくるめられて付き合ったりとかしてないですか?」

「ええっと、それは……」

ある意味、自分の気持ちに気づかされて、さらにその勢いで付き合うようになったことを考えれば言いくるめられたと言うのかもしれない。
しかし、それを彼の実の姉に言っても良いものなのだろうかと言葉を濁していると、目の前の陽菜はどんどん青ざめていった。

「や、やっぱり口車にのせられて……!?」

「お、落ち着いてください、そんなことありませんから」

見るからに慌てだす陽菜に声をかけながら先日堀原にも言われた言葉を思い出し、朝陽は一体周りにどういう風に思われているんだろうかと苦笑してしまった。
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