無自覚片思いの相手は策士な肉食系でした
『越名勇人です。
よろしく』

『短っ!短いって、勇人!他にも何か話せよ!』

ほら、盛り上げて盛り上げて!と拓也が必死に言うけれど、勇人はそれ以上何も言うことなく会場を見回していた。
二人のこのやり取りは何時ものことらしく周りがくすくす笑っている間に次の曲の準備が整ったようで、拓也の合図に合わせて再び曲が鳴り出した。

Kaiserは歌だけではなく運動神経もいいようで間奏の間に連続バク転をやったり前方宙返りをやったりとパフォーマンスがとても凄く、会場の人達と一緒に真未はおーっ!と拍手をしていた。

二回目のMCに入ると、衣装替えの為か拓也はステージから消え勇人だけが残った。
滅多に話すことのない勇人が何を話すのかとみんながワクワクしながら見つめているが、勇人は一言も話さず会場をじーっと見回していた。

『ただいまー!って、何この雰囲気、何してたの勇人!』

『何もしてない、探していただけだ』

『いや、何かしなよ!
て言うか、何探してたんだよ』

『……弟とその彼女』

えーーーっ!!!

と会場が驚きに包まれる中、真未と朝陽は目を丸くしてお互いの顔を見合わせた。

『拓也、探しといて』

『え、おい!勇人!』

無理難題を押し付けてステージから消えた勇人に拓也は肩を竦めて会場を見回した。
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