無自覚片思いの相手は策士な肉食系でした
「実はあの時、ストーカーの証拠集めのためだけに会えなかった訳じゃなかったんだ」

「え?」

「……真未の実家に行って、何度もご両親に会ってた」

ええっ!?と叫びそうになるのを慌てて口を押さえてなんとか飲み込んだ。
一人暮らしを初めてから約二年、父親とはまだ仲違いしたままで連絡は取っていないが母親とは何かあれば連絡を取っていたのに、全くの初耳なことに真未は目を丸くして朝陽を凝視した。

「真未のお父さん、すっごい真未のこと好きなのな。
可愛い一人娘だからなかなか許可をもらえなくて、何度も足を運んで誠意を見てもらった」

「許可?誠意?」

一体何のことだと聞き返すと、朝陽は一度だけ深呼吸をして椅子に置いていた鞄から封筒を取り出すと、そっと差し出してきた。

「あとは真未の気持ちだけ。
責任とれって言われたからじゃなくて、その前から動いてた勝手な俺の決意と本気。
今すぐでもいいし、やっぱり卒業後がいいならそれまで待つ」

その言葉にあることに思い当たり小さく震える手で封筒を受け取ると、ゆっくり封筒を開けて中に入っている紙を取り出して広げた。

「……婚姻届……」

「真未のお父さんにはちゃんと許可をもらった。
証人に名前があるのがその証拠だよ」

「嘘……」

確かに父親の筆跡で、父親の名前が書かれている。
朝陽の名前も、もう一人の証人も書かれていて、後は真未が記入して提出するだけの状態になっていた。

「どうしても、真未が大好きなこの曲の時に渡したかったんだ……」

眉を下げて微笑む朝陽に真未は勝手に目に涙が浮かんできてしまうのを止めることが出来ずにいた。
せめて流すまいと堪えようとしたが、朝陽の言葉でその努力は水の泡になった。
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