鬼神様のお嫁様
特にする事も無いのに着物に着替えるのは生活リズムを崩したく無いといった私なりのルールだ。
そんな中、唯一私を癒してくれるものが琴だった。
別棟にポツンと置かれていた琴に触れ、適当に音を奏でていたらいつの間にか弾けるようになっていたのだ。
今日も琴を弾こうか、そう思った時。
「すみれ」
何者かに名前を呼ばれた。
「誰?」
返事は無い。
聞き間違いだったのかも知れないと思った時、また名前を呼ばれた。
今度は声が鮮明だった。
「離れの、庭から…?」
確かに声のする方向は離れの庭からだった。
正直、あそこへは近づきたく無い。
何故なら、離れの庭は不思議と季節問わず真っ赤な彼岸花が咲いているからだ。
彼岸花が咲く時期は9月下旬。
なのに、ずっと咲いている。
だから薄気味悪く感じて私は物心ついた頃からあの庭へは近づかないようにしていた。
行きたくない、でも行かなければいけない気がして、まるで誘われるように私はあの庭へと足を運んだ。