過去の精算
愛さなければ良かった…
朝は一緒に出勤しても、今まで通り仕事中の彼からのアプローチは続いていた為、周りからの同情の目はあっても、冷たい視線や嫌がらせは、一切なかった。
そんなある日、ナース情報の噂が私の耳に入った。
それは、彼と、楓 銀行頭取のお嬢さんとの縁談話が進んでると言う話だ。
『これで、若先生も大人しくなるんじゃ無い?』
『流石に縁談話が進んでるのに、事務員に手を出してるなんて話が、相手の耳に入ったら大変だもんね?』
「木村さんも、これで一安心ね?」
「え? ええ…」
楓 銀行頭取の娘…縁談話か…
そっか…そうだよね?
うんうん。 分かる分かる。
この病院を継ぐ彼には、銀行頭取の娘さんぐらいじゃ無いとね?
私なんかじゃ、不釣り合いだよね?
いつかこんな日が来るんじゃ無いかって、分かってた。
でも、分かってたとはいえ、やっぱり辛い。
溢れてきそうな涙を必死に堪え、与えられた仕事をこなした。
噂が私の耳に入っている事も知らずか、今日も、彼は私の家にやって来た。
いつもの様に、台所に立っている私の後ろから抱きつき “ ただいま ” と言い “ 今日の飯何?” と聞いて来た。
「ねぇ、私に話無い?」
「話? んー、特に無いけど、どうした?」
何も話そうとしない彼を座らせ、彼に向かい合うように私も座った。
「そっか…無いんだ?
私は、前谷君から言って欲しかったけど…?
じゃ、私から話た方が良いのかな?」
私の言葉に彼は凄く困った顔をした。
「んー…もう少し後の方が良いと思ってたんだけど…
未琴がそこまで言うなら、仕方ないか…?」
仕方ないって…
私が言い出さなければ、いつまで隠すつもりだったの?
もしかして…
何も言わずに別れるつもりだった?
「俺達、結婚しないか?」
「私達、別れましょ?」
「「え?」」
「未琴、今なんて言った?」
「別れましょう…?って…
えっ! 違うの!?」
「未琴は、俺と別れたいのか?」
何がどうなってるのか分からず、私は首だけを横に振った。