過去の精算

全てが自分の思いがままになると知り、喜ぶ夫人の顔を息子である前谷君が歪めさせた。

「俺は受け取らない!」と、語気を強めて言う前谷君にそこに居た誰もが驚いていた。

「この病院は、親父と未琴のお母さんが、町の人達の為にと、犠牲になってまで残した病院だ。
お前の様な自分勝手で、私利私欲の塊の女に、この病院は絶対渡しはしない。

あんたが、俺の母親だと思うと恥ずかしくて、情けない。
でも、俺にもあんたの醜い血が流れてる…
いくら、親父と戸籍上は親子でも、あんたの血を引く俺には受け取る資格はない。
資格が有るのは未琴だけだ!」

信頼していた自分の息子に、お前とまで言われ、母親だと思うのが恥ずかしいとまで言われてしまった彼女は、呆然としていた。

暫くして、彼女は我に帰ると怒りを露わにし、“ お前なんか産むんじゃ無かった!” と、彼に憎しみを込めて言い放った。

なんて酷い事を…
それでも母親なの!?

しかし、彼はそんな言葉に怯む事もなく、横領の証拠だと、彼は幾多もの書類を母親へ叩きつけた。

「こ、これは…
どうして…これがここに…」

彼が出した書類はホストクラブの領収書だけでなく、ホストに買い与えたマンションや車の契約書類も、全て揃えられていた。
そして、こうも言った。

「楓 銀行頭取にも、あんたの犯した全てを話したら、“ 巻き添いにはなるたくない ”とさ!
勿論、今回のあんたとの件は全て無かった事にしたいそうだ」

院長夫人は、描き上げていた計画が全て泡となって消えてしまった事に、愕然として言葉が出ない様子だ。




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