過去の精算

「お父さん…?」

ICUの父の元へ向かうと、沢山のベットの1つに、沢山の管や機械に繋がれた父を、ママが見ていてくれた。

「思ったより早かったわね?」と言うママに、恥ずかしさで何も言えない。

「ついさっき目を覚ましたけど、まだぼんやりしてるみたいよ?」

私はママへお礼を良い、父の手を握る。

「お父さん、手術上手く行ったって!
良かったね? 自慢の息子で?」

父は、私の言ってる事が分かったらしく、涙ぐみ、小さく頷いた。

ICUの部屋の中には、看護師が沢山いる。その看護師等からは、ここへ入って来た時から突き刺さる視線を感じていた。
彼女達は、私が父の娘だとはまだ知らない。

父が元気になってから、皆んなには報せようと私は思っている。だが、娘だと知らせるのではなく、あくまで前谷和臣の婚約者としてだ。
さっき、ここへ来る前に少し彼と話をした。

『別に娘だと発表する必要ないと思うの?』

『でも、それじゃ…』

『私は、木村未琴で幸せ。
前谷和臣のお嫁さんになれるだけで、十分幸せだよ?』

反対する彼に、どんな形だろうと、親子に変わりないのだからと、説得した。
もし、本当の事を話せば、少なからず傷つく人がいる。わざわざ、皆んなを混乱させたり、父や彼を白い目で見られる様な事は避けたかった。

「で、これからどうするの?」と聞くママに、私はこう言った。

「父が元気になってから、改めて彼にプロポーズしてもらいます」

「で、式は?」と聞くママ。

私は首を振る。

「え!?
挙げないの?
院長とのバージンロードは?」

大きな声で聞くママへ、私は人差し指を立て、 “ シッ!” と言う。

「私、木村未琴のまま、彼と結婚しようと思います。だから…バージンロードは…」

「そっか…そうよね?
新郎の父親とバージンロードって言うのも変だものね?」

「たがら、籍だけ入れようと思います」

「彼はそれで良いって?」

「反対はされましたけど…私が良いならって言ってくれました」

「そうね?
沙織さんが生きてたら、そうしなさいって言うわね?
院長や彼の為にも?」

「でも、指輪は買ってもらいますけどね?」

「そうね、凄く高いの買って貰いなさい?」

はい!と言って、私達は笑った




< 176 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop