過去の精算
「お父さん…?」
ICUの父の元へ向かうと、沢山のベットの1つに、沢山の管や機械に繋がれた父を、ママが見ていてくれた。
「思ったより早かったわね?」と言うママに、恥ずかしさで何も言えない。
「ついさっき目を覚ましたけど、まだぼんやりしてるみたいよ?」
私はママへお礼を良い、父の手を握る。
「お父さん、手術上手く行ったって!
良かったね? 自慢の息子で?」
父は、私の言ってる事が分かったらしく、涙ぐみ、小さく頷いた。
ICUの部屋の中には、看護師が沢山いる。その看護師等からは、ここへ入って来た時から突き刺さる視線を感じていた。
彼女達は、私が父の娘だとはまだ知らない。
父が元気になってから、皆んなには報せようと私は思っている。だが、娘だと知らせるのではなく、あくまで前谷和臣の婚約者としてだ。
さっき、ここへ来る前に少し彼と話をした。
『別に娘だと発表する必要ないと思うの?』
『でも、それじゃ…』
『私は、木村未琴で幸せ。
前谷和臣のお嫁さんになれるだけで、十分幸せだよ?』
反対する彼に、どんな形だろうと、親子に変わりないのだからと、説得した。
もし、本当の事を話せば、少なからず傷つく人がいる。わざわざ、皆んなを混乱させたり、父や彼を白い目で見られる様な事は避けたかった。
「で、これからどうするの?」と聞くママに、私はこう言った。
「父が元気になってから、改めて彼にプロポーズしてもらいます」
「で、式は?」と聞くママ。
私は首を振る。
「え!?
挙げないの?
院長とのバージンロードは?」
大きな声で聞くママへ、私は人差し指を立て、 “ シッ!” と言う。
「私、木村未琴のまま、彼と結婚しようと思います。だから…バージンロードは…」
「そっか…そうよね?
新郎の父親とバージンロードって言うのも変だものね?」
「たがら、籍だけ入れようと思います」
「彼はそれで良いって?」
「反対はされましたけど…私が良いならって言ってくれました」
「そうね?
沙織さんが生きてたら、そうしなさいって言うわね?
院長や彼の為にも?」
「でも、指輪は買ってもらいますけどね?」
「そうね、凄く高いの買って貰いなさい?」
はい!と言って、私達は笑った