過去の精算
前谷君が、“ ついでだから、送って行く ” と、言うのを当然のごとく断り、自宅アパートへ自転車で帰って来ると、何故かアパート前には、さっき別れたばかりの、前谷君の車が停まっていた。
なぜ……?
「なんでここに居るんですか?
私の住所、誰から聞いたんですか?」
「俺の立場なら、なんとでも出来るさ?」
なんとでも出来るって……
はぁ…
うちの病院の情報管理はどうなってるの!?
「若先生は、個人情報保護って知ってます?」
「俺も馬鹿じゃ無いから、知ってるけど?
何か問題でも?」
いや、絶対馬鹿でしょ!
「問題ありありです!
不正な手段によって、個人情報取得することは、禁止されてます!
それも私的に使う為だなんて……あり得ない!
それでも、あなたは院長先生の息子ですか!?」
この人が、あの優しくて、町のみんなの事を思ってる院長先生の息子だなんて…
信じられない!
「訴えるなら、訴えて構わないけど?」
「開き直りですか?」
「君の好きにしたら良いって、言ってるだけ?」
好きにしたらって…
私が訴えたりしたら、病院は…
「もし、君が訴えたら、この町に病院は無くなるかもね?」
「それが分かってて、なぜこんな事!」
「んーどうしてかな?
喉乾いたからかな?」
「巫山戯ないで下さい!」
「別に巫山戯て無いけど、喉乾いたのはホント。お茶でも飲ませてよ?」
溜息をつくと、私は鞄から財布を出した。
「冷たいのと暖かいの、どちらにしますか?」
「まさか、自販機のお茶とか言わないよね?」
勿論、そのつもりだった。
「忙しい中、君からの電話だと聞いて、駆けつけたんだぞ?」
忙しい中って…
さっきは、暇してたって言ってたじゃない?
「分かりました。
お茶飲んだら、帰った下さいね?」
「ほーい!」
軽い返事をする前谷君を呆れながら、一階東角部屋の自宅へと案内する。