過去の精算
部屋の鍵を開ける前に、前谷君には変な事はしないと約束させ、ドアを開けた。
前谷君は、少しも遠慮する様子も無く、部屋に入ると、部屋の中を見渡していた。
「へぇー結構綺麗にしてるじゃん?
自分で掃除やってんの?」
初めて入る女性の部屋を、普通そんなにジロジロ見るか?
失礼じゃない?
「当然です。一人暮らしですから!」
「へぇー」
「何見てるんですか?
あまり見ないで下さいよ!」
お茶を入れて前谷君に出すと、今度はお腹空いたと言い出した。
「急いで出てきたからな?
昼飯食いそびれてさ、なんでも良いから、食わせてよ?」
はぁ?
図々しいにも程があるでしょ?
「あー腹減った!
これじゃ動けないし、帰れないわ!」と、言って、そのまま畳の上に大の字になった。
「ちょっと!
寝ないで下さいよ!」
もぅ!
仕方ないなぁ…
簡単なもの食べさせて、早く帰ってもらおう!
「味は保証しませんよ?」
冷凍してあったご飯を温めて、残り物の煮物と赤魚の味噌つけを焼き、ほうれん草のお浸しと油揚げと豆腐の味噌汁を作り、彼へ出した。
「おっ和食か?
うん。美味い!
やっぱり、日本人は和食だよな?
短時間で、これだけの物作るなんて、すげぇーな?この魚うめぇー
焼き魚なんて久し振りだわ!」
彼の言葉や行動に、腹も立てていたけど、自分の作った物を、美味しいと言って食べてもらえるのは、正直嬉しい。
母が亡くなってからは、一度も誰かの為にご飯を用意したことは無かったし、美味しいと言われた事も無かった。
「なぁ?
医者目指す事、もう諦めたのかよ?」
「諦めるも何も、始めから無理だったんです!」
「未練はないのかよ?」
「ある訳無いでしょ?」
「じゃ、なんであんなに医学書や医療関係の本残してるんだよ?」
「………そんな事、貴方には関係ないでしょう!?
さっさと食べて、帰って下さい!
私、これから約束が有るんですから!」
少し私の口調が強かったのか、前谷君は、ムッとして箸を置いた。
そして私を押し倒したのだ。
「嫌っ!」
「うるせぇー!
大人しくしろ!」