過去の精算

病院に到着すると、前谷君から連絡が入っていたらしく、河辺さんはMR検査へと運ばれて行った。

駆け付けた河辺さんの奥さんの話だと、河辺さんはどこに行くとも言わず、ピンクのユリの花を持って、一人で出かけて行ったと話してくれた。

あそこにいたって事は、誰かの…

救急車の到着とほぼ同時に到着した、前谷君に運ばれて来た男の子も、CT、MRなど、一通り検査をしたが、特に異常は無く、迎えに来たお母さんと一緒に帰って行った。

「良かった…」

「ホント良かったよ!」

「先生、河辺さんの容態は?」

「心配ないだろう。
額の傷も数針縫いはしたが、大丈夫だ。
てんかんを起こして倒れたところに、あの子の自転車がぶつかったらしい。
救急車の中でもけいれん起こした様だし、薬の量の調整する為に、暫く入院して様子見る事にした」

そう。
病院に着くまでの間、救急車の中で河辺さんは二度けいれんを起こしていた。

「じゃ、頭の方には?」

「新たな脳出血などは、見られなかった」

「良かった…」

「じゃ、遅くなったが、今から行くか?」

「え?何処にですか?」

「墓参り行くんだろ?」

「どうしてそれを?」

「今日は、お袋さんの命日なんだろ?
部屋のカレンダーに書いてあった」

そう。
今日は母の命日だった。

「あまり良い趣味じゃ無いと思いますよ?
女性の部屋をジロジロ見るのは?」

「ジロジロって……あのなぁ?
たまたま、カレンダーに印が付いてるのが目に止まっただけだろ?
それより、色気も可愛さも無い、あの部屋どうにかしたらどうだ?
部屋の本棚一杯に医学書持ってる女、普通の男ならひくぞ?」

「大きなお世話です!」

「俺はただ……」

「ただ?」

「ただ、早く好きな男作って、処女貰って貰えって言ってるんだ!」

「それこそ、大きなお世話です!」




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