過去の精算

まだ、何か言いたそうにしてる彼をその場に残し、帰ろうとしたが、病院を出た所で彼に捕まってしまった。

「早く乗れ!」

「結構です!」

「その足じゃ、家までもたないぞ?」

「大丈夫です。お気遣いなく!」

「あっそ? じゃ迎えに来てもらうか?」と言って、前谷君は何処かへ電話をかけようとした。

「何処に電話するんですか?」

「病院!」

病院って、ここ病院ですけど?

「車に乗るのが嫌なら、俺の診察受けて貰う!
今、ナースに車椅子持って来て貰うように連絡するから待ってろよ?」

はぁ!?
冗談じゃない!

「あっもしもし、俺だけど?
今、通用口出たところに、木村」

「わ、分かりました!
乗ります乗りますから、電話切って!」

慌てて彼の車に乗り込むと、彼は笑いを堪えるようにして、クックックと笑っていた。

「初めから素直に乗れば、俺だって茶番しないのに?」

茶番…?

「えっ! じゃ電話?」

「かけてない」

スピーカーにした彼の携帯からは、時報を知らせるアナウンスが聞こえて来た。

はぁ…? もぅ何なの!?

そのまま、母のお墓のある霊園に送ってもらい、彼も母のお墓に参りしたいと言うので、駐車場へ車を止め一緒に向かうと、いつもと同じお花、ピンク色のユリが供えてあった。

やっぱり……

今日こそ、誰が供えてくれてるか知りたくて、早めに来て待っているつもりだったけど、結局いつもと同じ時間になってしまった。

でも、もしかしたら……

「私のお父さん…河辺さんかも……」

「どうしてそう思う?」

「毎月、月命日には、誰かが花を供えてくらてるんです。
母の命日には、母の好きだったピンク色のユリが、必ず供えてあって…
さっき、河辺さんの奥さんが話してくれたの…
河辺さんは、ピンクのユリの花を持って出かけて行ったって…
私、これからどんな顔して、河辺さんの奥さんに、息子さんに会えばいいの?」

河辺さんには、私より年上の息子さんが居る。
と、言うことは、母達の関係は不倫になる。

「河辺さんが、君の父親だと決まった訳じゃないだろ?」

「でも……」

「見える事、聴いた事、それら全てが真実とは限らない。
はっきりするまで、誰にも話さない方が良い」

話せる訳がない…
それに、私には話せる相手も居ない。
母が河辺さんと不倫してたなんて……




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