過去の精算
翌朝、前谷君に言われたように、彼が買ってくれた洋服を着て鏡の前に立って見た。
着たことない高級品。
確かに高いだけあって肌触りは良いし、背筋がピンとする。
でも、なんだか肩こりそう…
あっヤバイ!
時計を見ると、時間ギリギリ。
前谷君のせいで、いつもより30分も早く家を出なきゃいけなくなったのだ。
もぅ!
今までは、髪はブラシでといて、ゴムで一つに纏めるだけで良かったのに、パーマをかけられたお陰で、ブローしなきゃいけなくなったし…
慣れてない事するのって大変なんだから!
そのうえ、こんな高い洋服着て自転車なんて、乗れないじゃない!
それもスカート短いし!
もーホント迷惑!
ブツブツと文句言いながら、私の仕事場である、前谷総合病院へと歩いていると、私の携帯電話が鳴った。
えっ! 誰?
誰か具合悪くなった?
私の携帯番号を、知ってる人は限られている。
慌てて鞄から取り出すと、登録のない知らない番号が表示されていた。
出ようかやめようか迷いつつも、もし、誰かが助けを求めていたらと、画面をタップした。
「もしもし…?」
『おはよう!』
「は?」
『おれ!』
電話の相手は前谷君だった。
なぜ、この人が私の番号知ってるの!
まぁ、家の住所も知ってたんだから、なんとでも知りようがあるか?
「私には、息子も孫もおりませんので、オレオレ詐欺は成り立ちませんよ!」と、言って、私は電話を切った。