さようなら、また夜に
現実世界で言うと、2日目の夜。
この世界で言うと、2回目の昼。
彼は疲れた顔1つ見せず、
ただ前に進んでいく。
私も疲れてはいないものの
(というかこの世界では疲れがない)、
流石に楽器の存在も信じ難くなっていた。
見知らぬ人が言うことが、
本当とは限らない。
「ねえ、本当にあるの...」
「見て、あれ!」
下を向いて歩いていた私は、
顔を上げた瞬間、言葉を失った。
「え...。」
「こんなところに人がたくさん」
「凄すぎるよ」
そこには膜でもあるかのように、
違う世界が広がっていた。
「君が、ここを【夢の世界】と
言うならば、この中は...」
「ここが【音楽の世界】だよ。
いや、【音楽の楽園】とでも言いたい」
何度見回しても不思議な世界だ。
今まで人なんて出会わなかったのに、
ここにはたくさんの人がいる。
有名なピアノやバイオリン、
コントラバス、管楽器、打楽器...。
無数に散りばめられた楽器は、
水の中に浮いている。
それを捕まえた人たちが、
独奏したり、デュオしたり、
時に大人数になったり。
そこに人の声は全く聞こえない。
それでも、音が、身体が、
楽しさを響かせてくる。
沢山の喜びのsymphony。
私はその世界には入ろうと、
その境界に手を入れた。