独占欲強めの部長に溺愛されてます
野々花は、向かいのデスクの松村に「ボールペンが切れたから、備品庫に行ってくるね」とひと声かけ、足早にマーケティング部を出た。
松村が一瞬ギョッとしたような顔をしたところをみると、野々花の顔がよほどひどい形相だったのだろう。
でも、それにかまっている余裕はない。笑顔を浮かべる気力もない。
昨夜加賀美に目撃されたばかりだが、それを気にしているどころではなかった。夜まで待てない。緊急事態だ。
(なんなのなんなのなんなのー!)
エレベーターにひとり乗り込み、タッチパネルの三十四階を連打。そうしたところでエレベーターのスピードが上がるわけではないが、やらずにはいられない。
さすが新しいビルだけあって、動きが上品なのが今日の野々花には堪える。
ようやく三十四階に到着し、カツカツカツとヒールの音を響かせて備品庫へ向かった。猪突猛進とはこういう状態をいうのだろう。
視界の隅で人影が動いた気がしたけれど、今はそれを気にしているゆとりはない。野々花には備品庫のドアしか目に入っていなかった。
勢いよくドアを開け、後ろ手で閉める。いつもなら窓際の隅の方へ行くが、そこまですら我慢できない。