希望の夢路
「いやです。離さないで」
語尾は小さくて、今にも消え入りそうな声だったけど、僕にはしっかりと届いていた。
「いいのか?そんなこと言われたら、自制が効かなくなるけど、それでもいい?」
「そ、それは…困ります、けど」
「どっちなんだよ」
思わず漏らした溜息に、彼女は少なからず動揺したらしい。
「わ、わたし…博人さんに離してほしくない…」
「ん、わかった」
彼女は僕を真っ直ぐに見つめてきた。
玄関でずっとこうしていたら、体に障るかもしれない。中に入らないことには何も始まらない。
「そろそろ、中へ入らないとな」
僕がそういうと、彼女は何かを思い出したかのように靴を脱ごうとした。
しかし、彼女は脱ぐことができない。何故ならー
「わ、わたし、一人でも…!」
僕は黙って彼女の手首をがっしりと掴み、動かないよう固定しているからだ。
「いいから」
そう言って僕は彼女をちらりと見た後、視線を彼女の靴へと戻した。
彼女は淡い色が好きなようで、今日はピンクのパンプスを履いている。
淡い色と言っても、ピンクやオレンジ、赤などの暖色系に限ってのことだが。汚れは目立っていないし、あまりすり減ってもいないようだ。もしかして、今日のために買って履いてくれたのかな、という期待が僕の胸にある。
「いいね、その靴」
「本当ですか?わあ、よかったあ…」
ふふ、と笑う彼女を見て僕は彼女を再び抱き締めた。彼女は何度僕が抱きしめても慣れないようで、そこがまた初々しくて良いところでもあるのだけれど、僕は我慢強いと自負してはいるものの、彼女のことに関してはすぐに我慢の限界に到達してしまうから、我慢強いという長所が我慢強くない、という短所になりつつある気がする。
「実は…今日のために買ったんです」
彼女は隣に座る僕をちらりと見て、直ぐに目を逸らした。
「嬉しいな。僕とのデートのためだけに買って、履いてくれたなんて」
「だって…博人さんとのデートですもの」
彼女の手を僕の手で包んだ僕は、自然と笑みがこぼれていた。
語尾は小さくて、今にも消え入りそうな声だったけど、僕にはしっかりと届いていた。
「いいのか?そんなこと言われたら、自制が効かなくなるけど、それでもいい?」
「そ、それは…困ります、けど」
「どっちなんだよ」
思わず漏らした溜息に、彼女は少なからず動揺したらしい。
「わ、わたし…博人さんに離してほしくない…」
「ん、わかった」
彼女は僕を真っ直ぐに見つめてきた。
玄関でずっとこうしていたら、体に障るかもしれない。中に入らないことには何も始まらない。
「そろそろ、中へ入らないとな」
僕がそういうと、彼女は何かを思い出したかのように靴を脱ごうとした。
しかし、彼女は脱ぐことができない。何故ならー
「わ、わたし、一人でも…!」
僕は黙って彼女の手首をがっしりと掴み、動かないよう固定しているからだ。
「いいから」
そう言って僕は彼女をちらりと見た後、視線を彼女の靴へと戻した。
彼女は淡い色が好きなようで、今日はピンクのパンプスを履いている。
淡い色と言っても、ピンクやオレンジ、赤などの暖色系に限ってのことだが。汚れは目立っていないし、あまりすり減ってもいないようだ。もしかして、今日のために買って履いてくれたのかな、という期待が僕の胸にある。
「いいね、その靴」
「本当ですか?わあ、よかったあ…」
ふふ、と笑う彼女を見て僕は彼女を再び抱き締めた。彼女は何度僕が抱きしめても慣れないようで、そこがまた初々しくて良いところでもあるのだけれど、僕は我慢強いと自負してはいるものの、彼女のことに関してはすぐに我慢の限界に到達してしまうから、我慢強いという長所が我慢強くない、という短所になりつつある気がする。
「実は…今日のために買ったんです」
彼女は隣に座る僕をちらりと見て、直ぐに目を逸らした。
「嬉しいな。僕とのデートのためだけに買って、履いてくれたなんて」
「だって…博人さんとのデートですもの」
彼女の手を僕の手で包んだ僕は、自然と笑みがこぼれていた。