希望の夢路
「どうだった?あいつのキスは」
「!?」
彼女の目が、みるみる悲しみに暮れる。
「ひ、ひどい、博人さん…!私、智也になんてキスされたくなかった…!私、博人さんにキスされたかった。博人さんに、博人さんに…っ!」
彼女は、もう我慢できないと言わんばかりに涙をぼろぼろと零した。
「うう……」
彼女は、きっと怖かったのだろう。
悪い夢を、なかなか忘れたくても忘れられなかったのだろう。
彼女は床に座り込み、両手で顔を覆った。彼女の小さなすすり泣きが聞こえた。
「……」
言いすぎた。僕は言いすぎてしまった。確かに僕に黙って会っていたのには少しだけ怒っているが、嫉妬の渦も相まって、僕はあろうことか彼女に酷いことを言ってしまった。傷つけてしまった。
僕は黙って床に座り、ごめん、と言って泣いている彼女を抱きしめた。
「博人さん〜〜っ」
「ごめん。ごめんよ」
「うう、博人さん〜」
僕は、彼女が泣き止むまで背中を擦った。だんだんと落ち着いてきたのか、彼女は僕を見つめた。彼女の頬には一筋の涙の跡がくっきりと残っていた。
また溢れそうになる涙を、僕は指で拭った。
「博人さん」
「ん?」
彼女は、僕の首に両腕を回して寄り添いながら言った。
「私、博人さんとずっと一緒にいたい。でも、博人さんに迷惑かけちゃうから、一緒にいない方が…」
「そんないけないこと、言っていいんだ?」
「えっ?んっ 、む、っ、」
僕は、彼女の唇を塞いだ。
目を丸くした彼女が目の前にいる。
僕は嫉妬で狂いそうになっている。
彼女は僕だけのものだって印をつけたい。でも、まずは強い口付けを君に。
「んっ、……っ」
唇を離すと、彼女は顔を真っ赤にしていたが、僕の胸にぐりぐりと顔を押し付けた。
「…どう?」
「えっ…」
彼女は、僕の声に顔を上げた。
「あいつとのキスと、どっちがいい?」
「博人さんのキスが好きっ…!」
彼女は目を閉じてぽふっ、と僕の胸に再び顔をつけた。
「もう二度と、他の男になんて触れさせないから。指一本も」
「はい…」
彼女の髪に触れる。
とても良い匂いが僕を癒した。
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