希望の夢路
「心愛ちゃん」
彼女は、僕の首に腕を回したまま、動こうとしない。
「ねえ、博人さん」
「ん?」
「私ね…博人さんの癒しになりたい」
「癒し?僕の?」
「はい。こんな私じゃ…博人さんを癒せないかもしれなーんっ…!」
僕は彼女の言葉を遮った。
彼女を僕から離し、唇を再び塞いだ。
「ひ、博人さん…」
彼女は不意打ちのキスにドキドキしているのか、俯いてしまった。
「心愛ちゃんは僕の癒しだ。最高の癒しだ」
「本当ですか?」
「うん、本当。いつも癒されてる」
「よかった…」
彼女が嬉しそうに微笑むから、その笑顔をもっと見たいと思ってしまう。

「ねえ、心愛ちゃん」
「はい」
「あいつが、好きだったんだろ」
「えっ?博人さん…?」
「あいつから聞いた。…好きだったんだな、あいつのこと」
「智也の、こと…」
「ああ。あいつのことが好きだったんだよな。……僕より」
「……」
彼女は困った顔をした。
「いいんだ。心愛ちゃんだって、女の子だもんな。純粋に、あいつのことを好きになったんだろ。咎めはしないよ。する権利もないし」
彼女はただただ、黙っていた。
「あいつは確かに強引だけど、心愛ちゃんのことを大切に思ってる。僕よりもあいつの方が」
そこまで言って僕の言葉は途切れた。
何故なら、彼女の顔が今、僕の目の前に迫り僕の唇に彼女の唇が触れてー
「…え、?」
「ふふ、」
彼女は、『博人さんに勝った』と満面の笑みを浮かべていた。
「ふふ、博人さんに勝った。博人さんばっかりずるいもの。私にキスばっかり」
「いや、それは」
「いつもいつも博人さんにばかり、キスされるんだもん。ちょっとだけ、意地悪しちゃった」
へへ、とぺろりと舌を出して笑う彼女は、確信犯なのだろうか。
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