希望の夢路
僕の想像を遥かに超える行動を起こす君には、勝てないな。
「博人さん、私ね」
彼女は自分の手と僕の手をいつの間にか絡めていた。お互いに繋がれている手を、彼女は左右に揺らし微笑んでいた。
「うん」
怖い。彼女の過去を知るのが、怖い。
こんなに怖いとは思わなかった。
彼女は、あいつを好きだった。
あいつとどうやって出会って、どうして好きになったのか。知りたくないけど知りたい。
ああ、どうしよう。
「博人さん、私ね、博人さんのこと、大好きだから…智也のことなんか、大嫌い」
「本当?」
「ほんと!ほんと!」
彼女は僕の手をぐいぐい引っ張った。
あいつの、どこを好きになったんだろう。やっぱり、強引なところか?
ストレートにものを言うところか?
「私、智也の優しいところが好きで」
優しい、ところ?
あいつが、優しい?
「優しいんです、意外と。重たい荷物を持ってて、手が痛いなって思ってたら、スマートに…持ってくれて」
「そうか」
あいつは、紳士だとでもいいたいのか?
「頭も良くて」
昔の思い出を辿るように目を細めて話す彼女が、僕は許せなかった。
もう、どうでもよかった。
どうなってもいいと思った。
「…っ、博人さ…!」
僕は彼女を押し倒した。
玄関で、彼女を。

彼女の瞳が揺れる。
君が悪いんだぞ、心愛ちゃん。
君が、あいつのことを楽しそうにー
いや、嬉しそうに話したりするから嫉妬に狂って僕は、冷静ではいられない。そんな僕を嫌いになるならなってもいい。
もう、いい。
いっそ、嫌いになってくれ。
やはり、君はあいつのところへ行った方が幸せになれるんだ。
御曹司だし、強引ではあるけど優しいんだろ?あいつの方が僕よりも君を深く愛しているはずだ。
あいつのところへ行けばいい。
まだ、君はあいつを忘れられていない。それは、君を見ていればすぐわかる。まだ、あいつを好きなんだよ君は。


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