希望の夢路
「大好きだよ、愛してる」
「それなら、どうして…」
「愛してるからこそ、君の幸せを願ってる。幸せになって」
そう言って、僕は彼女にキスをした。
最後のキス。さよならの、キス。
予想もしていなかった、悲しいキス。
優しく何度も。
「待って…本当に、行っちゃうの?」
「うん」
「私を置いて、行っちゃうの?」
「そうだよ」
僕は彼女を優しく離した。
彼女に背を向け出ていこうとしたら、彼女は僕の背中に抱きついた。
「行かないで」
そう呟いたけれど、僕は聞こえないふりをした。
「じゃあね」
「ねえ、また…会えるよね」
「もう会わないよ」
「そんな…やだ、やだっ」
彼女が涙声で叫ぶ。
「ごめん」
「博人さん」
「今までありがとう、…心愛」
「博人さん…!?ひろと、さ…」
僕は、彼女の家を後にした。
彼女の顔を見てしまえば、決心が揺らぎそうだったから。
僕は、ぱたんと閉めたドアを一度振り返った後、ゆっくりと歩き出した。


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