希望の夢路
「早く行け」
俺は、博人に言った。
「わかってる。もう二度と心愛ちゃんを離さない。泣かせはしない」
博人は俺を睨んだ後、玄関へと向かった。
「保乃果さん、俺に出来ることがあればなんでもいいので連絡ください。俺は、心愛のためならどんなことでもします。それが、俺なりの償い方です」
「わかった。今は、博人と心愛ちゃんをそっとしといてあげて」
「はい。本当にすみませんでした」
俺は、深く頭を下げた。
いいのよ、と保乃果さんが笑った。
俺はその笑顔に、救われた。

「心愛ちゃん…!」
家にいなかった彼女を探し回って、
やっと見つけた。
「博人、さん…??」
僕は、無意識に彼女の左側にいた。
「博人さん、なの??」
彼女は、左手を震わせながら何かを探し出すように、ゆっくりゆっくり手を伸ばした。見えない何かを、手探りで探すように。
その時初めて気づいた。
そうだ、彼女は左目が見えていないんだった。
「僕だよ、心愛ちゃん」
そう言って、僕は彼女の左手を優しく握る。
「…っ、本当に、博人さんなの?」
彼女は、宙に何かが浮かんでいるかのように宙を見ていた。半分だけ、見えないのだろうか。
「どこ…?博人さん、どこ…??」
彼女は、左にいる僕がわからないようで、右をキョロキョロと見回していた。
「どこ?博人さん、どこにいるの…?博人さんっ…」
彼女の体が、震え出す。
「博人さんっ、どこ、どこ…っ!」
僕は彼女から手を離し、正面から彼女を抱きしめた。
「あっ、博人さん…!」
彼女は、やっと僕が見えたようだ。
僕が、右目の視界に飛び込んできたといったところかな?
「博人さんだ…博人さん」
彼女は、僕の頬に左手をつけた。
左目が見えていないから、彼女の左手は常に震えていて、まるで壊れ物を大事に扱うかのようにゆっくりと近づいてくる。僕の頬に触れると、感触を確かめるかのように彼女は、ぺたぺたと僕の頬を触る。
「博人さん…もう離さない」
「僕も離さないよ、心愛ちゃん」
僕は、彼女の両手をしっかりと握った。彼女は、僕の手を絡めてにっこりと笑った。
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