希望の夢路
「心愛ちゃん」
「はい、何ですか?」
首を傾げる彼女は、今までと同じにしか見えない。まさか、まさか左目が見えないだなんて。とてもそんな風には、見えない。
「行きたいところ、ある?」
「行きたいところですか?」
彼女は、うーん、と言いながら考え込んでしまった。
「私は、博人さんと一緒ならどこへでも……」
彼女は照れていた。
「ん?うーん、どうしようか」
僕は、特にどこへ行こうか考えていなかった。彼女とこうして会えただけで嬉しかったしー
「博人さんのお家に…行きたい」
「本当に、いいのか?」
「はい。できればその、お泊まりしたい…あ、」
「ん?」
「お泊まりするなら、荷物を……」
「いいよ。買えばいい」
「だめ…ちゃんと、私用意してたんです。いつお泊まりしようって言われてもいいように」
ふふ、と彼女が笑う。
「気が早い、って思いました?」
彼女の頬は緩み切っている。
「そんなこと言って、いいのかな〜?」
僕はにやりと笑った。
すると、彼女が急に焦り出す。
「え、えっと、その……へ、変なことはしないでください…!!」
「ん?どうしよっかな〜?」
「い、いやです。変なことしないで…」
目を逸らした彼女は、顔を赤く染めていた。今までと変わらない、他愛もない会話。いつもの、幸せな日常。
でも目の前にいる彼女は、いつもの彼女じゃない。彼女は、左目が見えない。嘘だと思いたい。でも、見えないんだ。

嫌でも思い知らされたのは、僕と彼女が荷物を持って僕の家に入った時だった。僕と彼女は、玄関で靴を脱いだ。
「脱げる?」
「はい、大丈夫ですよ」
彼女は、右足の靴はすぐ脱げたものの、左足の靴を脱ぐのには少し時間がかかった。彼女は靴に触れ脱ごうとしているのだが、なにぶん見えないから靴の感触を手で辿っている。
「…!博人さん?」
彼女が、僕を目を丸くして見た。
僕は、彼女の左手に優しく触れ、彼女のその綺麗な手を、膝の上にぽんと置いた。それからすぐに僕は、彼女の左足に履いている靴を脱がした。
「あ、…ありがとうございます…」
「いいんだよ。遠慮なく、僕を頼って」
「でも」
「いいから」
「わかりました。ありがとうございます…また、迷惑かけちゃった」
「迷惑じゃないよ。君と戯れる時間が少しでも長く取れるだなんて、最高だ」
僕は優しく彼女を立たせ、僕は彼女の正面に立ち彼女の肩に手を置いた。
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