希望の夢路
「すごいよね、この絵」
彼女は絵画を見上げ、感心したように言った。
「そうだね、すごいよね」
僕は彼女と、目の前にある大きな額縁の蝶を見て言った。
「絵とは思えないよ。すごい」
彼女は頷いた。
「こんな絵を描ける人がいるんだって、驚いてる、私」
「僕もだよ」
「こんな絵を描ける人ってすごいなって。誰もが釘付けになる絵を描けるだなんて」
「普通じゃ、こんなすごいもの描けないよな」
「そうだよね。この才能って、どこから降ってくるんだろう。」
降ってくる才能、か。彼女らしい言葉だ。
彼女の言葉は重みがあるというか作家のような言い回しでものを言う。
実際、彼女の文章を読んでみても、本当に作家のような言い回しが
上手く文章のあちこちに散りばめられていて、引きつけられるものがある。
一文一文読んでいくたびに鮮明に再生されていく映画のスクリーン。
センスは、確実にある。
彼女には、本当にセンスがあるんだ。もっともっと自信を持っていいのに。
「あるよ、才能」
「えっ?ひろくん?」
「心愛ちゃんには、才能あるよ」
「ないよ、才能だなんて」
「ある」
「ない」
「ある。僕が言うんだから間違いない」
「そうかなあ…」
「そうだよ。自信持っていいんだよ」
「自信なんて持てないよ。第一、自信なんてそんな簡単につくものじゃない」
彼女はきっぱりと言った。
なんて自分に厳しいんだろう。
「なーんて偉そうなこと言ってるけど、ただ自信が持てないだけなの」
彼女は寂しそうに笑った。
「僕が心愛ちゃんのファン第一号」
「ひろくん…?」
「そして、心愛ちゃんの本の愛読者第一号」
「ひろくん…!」
彼女の潤んだ瞳を見て、僕は続けた。
「僕は心愛ちゃんの夢の応援団長」
「んんっ…かっこいい。私の夢の応援団長…っ!」
彼女は僕の胸に飛び込んだ。大きな額縁の蝶の前で。
「やっぱりひろくん、才能あるよ。作家の」
「ないよ」
「あるよ…!だって、センスある」
「夢の応援団長って言葉に反応した?」
「うん」
「心愛ちゃんの方がセンスあるの」
「そうかな~」
「そうだよ」
なかなか納得しない彼女を見て、僕は言った。
「人生、何が起こるかわからないねえ」
彼女が突然そんなことを言い出すので、どうしたのだろうと僕は心配になった。
「どうしたの、急に」
「何かの、巡り合わせかなあって思って。不思議な縁を感じるの」
「巡り合わせ…不思議な縁…」
僕は、彼女が口にした言葉を繰り返した。
この言葉は、僕と彼女の運命の出会いを言い換えたものだろうと思っていたが、
彼女はどうやら、違う意味で言ったらしい。
「行きたいと思っていたところへ行けるって、巡り合わせとしか言いようがないよね」
―僕の考えていることと彼女の考えていることが、ずれている。
「どうしたの、ひろくん」
「何でもないよ」
「嘘。むっとしてる」
「してない」
「してる…」彼女は俯いた。
「巡り合わせって、不思議な縁って、僕とのことかと思ってたのに」
「あ…!それもあるけど」
「もういいよ」僕は拗ねた。素直じゃないな。
「拗ねないでよ」
「拗ねてないよ」
「も~」彼女は困っていた。
「私、ひろくんと出逢えてよかったって思ってるよ。
巡り合わせという言葉よりも、運命の出逢いって言葉が似合うと思うの。
ひろくんと一緒にいると、とっても幸せ。
ひろくんみたいな素敵な人と、こんなにゆっくりで幸福な時間を過ごせるなんて
夢みたいって、いつも思ってるもの」
「…」
「本当だよ?本当に私、そう思ってー」
僕は彼女をきつく抱き締めた。
「んんっ、ひろくん、苦しい、苦しいってば」
そういう彼女は、笑顔だった。
「あ、そうだ」
「ん?なに?」彼女は首を傾げた。
「この絵画、どうやって表現する?心愛ちゃんなら」
「うーん、そうだねえ」
彼女はどうやって表現するのだろう。
「変な出だしかもしれないけど、いい?」
「…変な出だしなんかじゃないよ、どうぞ」
「うん、わかった。」
彼女は深呼吸して言った。
彼女は絵画を見上げ、感心したように言った。
「そうだね、すごいよね」
僕は彼女と、目の前にある大きな額縁の蝶を見て言った。
「絵とは思えないよ。すごい」
彼女は頷いた。
「こんな絵を描ける人がいるんだって、驚いてる、私」
「僕もだよ」
「こんな絵を描ける人ってすごいなって。誰もが釘付けになる絵を描けるだなんて」
「普通じゃ、こんなすごいもの描けないよな」
「そうだよね。この才能って、どこから降ってくるんだろう。」
降ってくる才能、か。彼女らしい言葉だ。
彼女の言葉は重みがあるというか作家のような言い回しでものを言う。
実際、彼女の文章を読んでみても、本当に作家のような言い回しが
上手く文章のあちこちに散りばめられていて、引きつけられるものがある。
一文一文読んでいくたびに鮮明に再生されていく映画のスクリーン。
センスは、確実にある。
彼女には、本当にセンスがあるんだ。もっともっと自信を持っていいのに。
「あるよ、才能」
「えっ?ひろくん?」
「心愛ちゃんには、才能あるよ」
「ないよ、才能だなんて」
「ある」
「ない」
「ある。僕が言うんだから間違いない」
「そうかなあ…」
「そうだよ。自信持っていいんだよ」
「自信なんて持てないよ。第一、自信なんてそんな簡単につくものじゃない」
彼女はきっぱりと言った。
なんて自分に厳しいんだろう。
「なーんて偉そうなこと言ってるけど、ただ自信が持てないだけなの」
彼女は寂しそうに笑った。
「僕が心愛ちゃんのファン第一号」
「ひろくん…?」
「そして、心愛ちゃんの本の愛読者第一号」
「ひろくん…!」
彼女の潤んだ瞳を見て、僕は続けた。
「僕は心愛ちゃんの夢の応援団長」
「んんっ…かっこいい。私の夢の応援団長…っ!」
彼女は僕の胸に飛び込んだ。大きな額縁の蝶の前で。
「やっぱりひろくん、才能あるよ。作家の」
「ないよ」
「あるよ…!だって、センスある」
「夢の応援団長って言葉に反応した?」
「うん」
「心愛ちゃんの方がセンスあるの」
「そうかな~」
「そうだよ」
なかなか納得しない彼女を見て、僕は言った。
「人生、何が起こるかわからないねえ」
彼女が突然そんなことを言い出すので、どうしたのだろうと僕は心配になった。
「どうしたの、急に」
「何かの、巡り合わせかなあって思って。不思議な縁を感じるの」
「巡り合わせ…不思議な縁…」
僕は、彼女が口にした言葉を繰り返した。
この言葉は、僕と彼女の運命の出会いを言い換えたものだろうと思っていたが、
彼女はどうやら、違う意味で言ったらしい。
「行きたいと思っていたところへ行けるって、巡り合わせとしか言いようがないよね」
―僕の考えていることと彼女の考えていることが、ずれている。
「どうしたの、ひろくん」
「何でもないよ」
「嘘。むっとしてる」
「してない」
「してる…」彼女は俯いた。
「巡り合わせって、不思議な縁って、僕とのことかと思ってたのに」
「あ…!それもあるけど」
「もういいよ」僕は拗ねた。素直じゃないな。
「拗ねないでよ」
「拗ねてないよ」
「も~」彼女は困っていた。
「私、ひろくんと出逢えてよかったって思ってるよ。
巡り合わせという言葉よりも、運命の出逢いって言葉が似合うと思うの。
ひろくんと一緒にいると、とっても幸せ。
ひろくんみたいな素敵な人と、こんなにゆっくりで幸福な時間を過ごせるなんて
夢みたいって、いつも思ってるもの」
「…」
「本当だよ?本当に私、そう思ってー」
僕は彼女をきつく抱き締めた。
「んんっ、ひろくん、苦しい、苦しいってば」
そういう彼女は、笑顔だった。
「あ、そうだ」
「ん?なに?」彼女は首を傾げた。
「この絵画、どうやって表現する?心愛ちゃんなら」
「うーん、そうだねえ」
彼女はどうやって表現するのだろう。
「変な出だしかもしれないけど、いい?」
「…変な出だしなんかじゃないよ、どうぞ」
「うん、わかった。」
彼女は深呼吸して言った。