希望の夢路
僕は彼女と楽しくいろいろなことを語らい、今までの空白の時間を埋めるかのように温もりを確かめ合っていた。
彼女は僕に別れを告げられてからというもの、食欲もなくなかなか食事が喉を通らなかったという。
ショックはあまりにも大きかったらしく、彼女は体調を崩し熱を出していた。高熱はなかなか下がらず、上がったり下がったりを繰り返し、熱が完全に下がって少しずつ元気になった時には左目の視力を失っていたという。
それも、彼女は最近まで左目が失明したことに全く気づかなかったというから、驚きだ。
右目は見えているから、見えない左目の視力をカバーしようとして、左目も見えていると錯覚してしまうのだろうか。僕は本当に、申し訳ないことをしたんだなと思った。
悔やんでも悔やみきれない。
僕があんな風に彼女を突き放さなければ、こんなことにはならなかった。
少なくとも、彼女の左目が失明するだなんてことにはならなかったはずだ。
智也は俺のせいだと言っていたけれど、僕のせいなのではないかという思いは消えない。あの時、彼女に別れさえ告げないでいたら、きっと僕達はもっと幸せな未来にいただろうに。
「博人さん、博人さんは何を聞きますか?」
「ん?心愛ちゃんの聞きたいものでいいよ」
「それじゃあ…NEWSTAR!」
彼女は嬉しそうに、僕の携帯で動画を見ようとインターネットで検索している。好きだよなあ、佐藤重幸。
黒髪の美青年。これで30代かよ。
二十代にしか見えないよ。
ああ、イケメンだ。
僕に勝ち目はない。
「ふふ、かっこいい〜!!」
彼女は僕の携帯でNEWSTARの動画を再生している。彼らの曲が流れる。
「しーげくんっ♡」
だめだ。完全に彼女の心は佐藤重幸に奪われた。ああ、お願いだから僕を見てよ。僕だけを見てよ。
〜 君だけが、僕の女神
僕だけを見ていてくれ 〜♪
なんて曲なんだ、この曲は。
いい曲だな。テンポも良いし…。
「しげーくんっ♡ふふふっ♡」
ああ、嫉妬で狂いそう。
彼女が嫌だと言っていたディープキスをしたくなってしまうな。
それほどまでに嫉妬してる自分がいる。嫌われたくないから、ディープキスは、まだしないけど。おあずけ、かな。
「心愛ちゃん、この曲なんて曲?」
そう言うと、彼女は目を輝かせながら言った。
「幸せはこの手の中に」
「幸せは、この手の…中に」
「いい曲でしょ?」
「うん。いい曲だ」
ふふ、と笑う彼女は、またこの曲をリピートしている。
< 131 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop