希望の夢路
「ここなの?」
「うん、そうだよ」
心愛ちゃん家に、辿り着いた。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ古めかしいアパート。
インターホンを押す。けれども、返事が全くない。
やはり、意識を失って倒れているのだろうか。心配だ。
ピーンポーン
博人が再びインターホンを鳴らす。
「…出ない」
博人が呟いた。
「そうね…出ないわね…って、ちょっ…!」
私は、博人の奇行を垣間見たーというのは大袈裟かもしれないが、明らかに奇行―
ピンポーン ピンポーン ピンポン ピンポン ピンポン ピンポーン
「ちょっ、何やってるのよ博人。うるさいって。周りに迷惑でしょ?
しかも何度も鳴らして…ストーカーまがいのことしないでよ」
「失礼だな。僕はそんなんじゃないよ。心配だからつい何度も押しちゃうんじゃないか」
「…」
いくら心配でも、ここまでインターホン押すかね…?
「出ないみたいだけど、どうする?」
「大丈夫」
そう言って、博人はポケットから鍵を出し、鍵穴に鍵を指した。
「ちょーっと待って!」
「なんだよ」
「何で鍵、持ってんの?」
「え?ああ、」
博人は平然としていた。
「これ、合鍵」
「合鍵…」
私は、絶句した。
博人が、心愛ちゃん家の合鍵を持ってるなんて。
いや、付き合ってるんだから、それくらいは有り得る話なのかもしれない。
けれど、私は驚いた。
「なんでそんなに驚いてんだよ」
博人は笑った。
―そうだ。そんなに驚くようなことじゃない。なのに、もやもやする。
心に、霧がかかる。濃い、霧がー。
博人が、ドアを開けた。
「はい、どうぞ」博人は私に、中へ入るよう促した。
私は、躊躇った。博人の彼女の家に、心愛ちゃんの許可なく入っていいものか。
入っちゃいけない。
博人は恐らく、何回かここに来ているのだろう。
とても慣れた様子だったし、何より合鍵の存在が博人と心愛ちゃんの深い関係を物語っていた。
固まっている私を見て、博人は言った。
「なにそこで固まってんだよ。ほら、入った入った」
博人は私に近寄り、私の背中を押した。
その大きくて優しい手を、私は我慢できずに握った。
―これは、このことだけは、心愛ちゃんには秘密。
だって、こんなことしたって知ったら心愛ちゃん傷ついちゃうし、
私は心愛ちゃんを傷つけるつもりは毛頭ない。
心愛ちゃんがこのことを知ったら、きっと博人から離れていく。
博人を失った心愛ちゃんは、太陽を見失った向日葵のように、あっという間にしぼんでしまう。
だから、そんなことさせない。
二人には幸せになってもらわなきゃ困る。私の、分も。
「どうしたんだよ、保乃果」
博人は驚いていた。
「本当に入っていいの?心愛ちゃんの許可なく」
「大丈夫だよ。ほら早く」
博人は優しく手を放した。あまりにもあっさりと放された手を、私はじっと見つめた。
「私じゃ、だめ?」
「保乃果?」
「私、やり直したい。博人と」
「…保乃果」
「わかってる、わかってるの!
博人は心愛ちゃんにベタ惚れで、心愛ちゃんも博人にベタ惚れで私の入る隙はないってことぐらい。
でも、博人と一緒にいると付き合ってた頃のこと、思い出しちゃう。
博人といると、私すごく楽しいの。ずっと一緒に居たいと思ってしまうの」
私は再び、博人の手を握った。
「保乃果…悪いけど」
博人は私の手を放した。
私は心愛ちゃんには、敵わない。
「いや。」
私は性懲りもなく博人の手を再び握った。
「保乃果、保乃果もわかってるだろ?僕には心愛ちゃんがいる。
とても大切な彼女がいる。だから、諦めてくれ」
「…わかってる、わかってるの…」
声が、掠れた。
「じゃあ、」
「でも、諦めきれない…私…!」
私は我慢できずに、博人を玄関で押し倒した。
「ほ、保乃果…」
博人はたじろいだ。
「私、ずっと好きだったんだから。ずっと博人のこと見てた。
私のことだけ、見ててほしいの」
「保乃果、悪いけどそれはできない、僕は心愛ちゃんを心の底から愛している。
だから、こういうことはやめてくれ。保乃果のことは、友達としてしか見れない。」
「…やっぱり、だめなのね…」
「悪いけど、無理だ」
博人は保乃果から離れた。
惨めだった。振られることは、わかっていた。
でも、想いを伝えずにはいられなかった。
溢れる想いを、抑えることができなかった。
バカだな、私。相思相愛の二人を邪魔しようだなんてー
「ごめん、今の、忘れて」
涙が止まらなかった。
「保乃果」
背中を向けた私の頭を、博人はぽんぽんと撫でた。
「…やめてよ、そんなことされたら、私…」
声が、震えて止まらない。
「…好きになっちゃう?」
「…うん」
「困るな。僕は彼女持ちだ」
「知ってるわよ、そんなこと。あんな可愛い彼女には勝てない。よくわかった」
「うん、そうだよ」
心愛ちゃん家に、辿り着いた。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ古めかしいアパート。
インターホンを押す。けれども、返事が全くない。
やはり、意識を失って倒れているのだろうか。心配だ。
ピーンポーン
博人が再びインターホンを鳴らす。
「…出ない」
博人が呟いた。
「そうね…出ないわね…って、ちょっ…!」
私は、博人の奇行を垣間見たーというのは大袈裟かもしれないが、明らかに奇行―
ピンポーン ピンポーン ピンポン ピンポン ピンポン ピンポーン
「ちょっ、何やってるのよ博人。うるさいって。周りに迷惑でしょ?
しかも何度も鳴らして…ストーカーまがいのことしないでよ」
「失礼だな。僕はそんなんじゃないよ。心配だからつい何度も押しちゃうんじゃないか」
「…」
いくら心配でも、ここまでインターホン押すかね…?
「出ないみたいだけど、どうする?」
「大丈夫」
そう言って、博人はポケットから鍵を出し、鍵穴に鍵を指した。
「ちょーっと待って!」
「なんだよ」
「何で鍵、持ってんの?」
「え?ああ、」
博人は平然としていた。
「これ、合鍵」
「合鍵…」
私は、絶句した。
博人が、心愛ちゃん家の合鍵を持ってるなんて。
いや、付き合ってるんだから、それくらいは有り得る話なのかもしれない。
けれど、私は驚いた。
「なんでそんなに驚いてんだよ」
博人は笑った。
―そうだ。そんなに驚くようなことじゃない。なのに、もやもやする。
心に、霧がかかる。濃い、霧がー。
博人が、ドアを開けた。
「はい、どうぞ」博人は私に、中へ入るよう促した。
私は、躊躇った。博人の彼女の家に、心愛ちゃんの許可なく入っていいものか。
入っちゃいけない。
博人は恐らく、何回かここに来ているのだろう。
とても慣れた様子だったし、何より合鍵の存在が博人と心愛ちゃんの深い関係を物語っていた。
固まっている私を見て、博人は言った。
「なにそこで固まってんだよ。ほら、入った入った」
博人は私に近寄り、私の背中を押した。
その大きくて優しい手を、私は我慢できずに握った。
―これは、このことだけは、心愛ちゃんには秘密。
だって、こんなことしたって知ったら心愛ちゃん傷ついちゃうし、
私は心愛ちゃんを傷つけるつもりは毛頭ない。
心愛ちゃんがこのことを知ったら、きっと博人から離れていく。
博人を失った心愛ちゃんは、太陽を見失った向日葵のように、あっという間にしぼんでしまう。
だから、そんなことさせない。
二人には幸せになってもらわなきゃ困る。私の、分も。
「どうしたんだよ、保乃果」
博人は驚いていた。
「本当に入っていいの?心愛ちゃんの許可なく」
「大丈夫だよ。ほら早く」
博人は優しく手を放した。あまりにもあっさりと放された手を、私はじっと見つめた。
「私じゃ、だめ?」
「保乃果?」
「私、やり直したい。博人と」
「…保乃果」
「わかってる、わかってるの!
博人は心愛ちゃんにベタ惚れで、心愛ちゃんも博人にベタ惚れで私の入る隙はないってことぐらい。
でも、博人と一緒にいると付き合ってた頃のこと、思い出しちゃう。
博人といると、私すごく楽しいの。ずっと一緒に居たいと思ってしまうの」
私は再び、博人の手を握った。
「保乃果…悪いけど」
博人は私の手を放した。
私は心愛ちゃんには、敵わない。
「いや。」
私は性懲りもなく博人の手を再び握った。
「保乃果、保乃果もわかってるだろ?僕には心愛ちゃんがいる。
とても大切な彼女がいる。だから、諦めてくれ」
「…わかってる、わかってるの…」
声が、掠れた。
「じゃあ、」
「でも、諦めきれない…私…!」
私は我慢できずに、博人を玄関で押し倒した。
「ほ、保乃果…」
博人はたじろいだ。
「私、ずっと好きだったんだから。ずっと博人のこと見てた。
私のことだけ、見ててほしいの」
「保乃果、悪いけどそれはできない、僕は心愛ちゃんを心の底から愛している。
だから、こういうことはやめてくれ。保乃果のことは、友達としてしか見れない。」
「…やっぱり、だめなのね…」
「悪いけど、無理だ」
博人は保乃果から離れた。
惨めだった。振られることは、わかっていた。
でも、想いを伝えずにはいられなかった。
溢れる想いを、抑えることができなかった。
バカだな、私。相思相愛の二人を邪魔しようだなんてー
「ごめん、今の、忘れて」
涙が止まらなかった。
「保乃果」
背中を向けた私の頭を、博人はぽんぽんと撫でた。
「…やめてよ、そんなことされたら、私…」
声が、震えて止まらない。
「…好きになっちゃう?」
「…うん」
「困るな。僕は彼女持ちだ」
「知ってるわよ、そんなこと。あんな可愛い彼女には勝てない。よくわかった」