希望の夢路
「お待たせーって、楽しそうだな」
博人がドアを開けて心愛と保乃果のいる寝室へと入ってきた。
「ふふふ、でっしょー?」
「ふふっ」心愛と保乃果は楽しそうに笑った。
「何話してたんだよ、気になる」
「秘密。ね?」保乃果は心愛を見た。
「うん。秘密。ほのちゃんとの、秘密!」心愛は保乃果を見て笑った。
「ふふ、ということだから博人には内緒」
「なんだよ、それ…」博人は困ったように笑った。
博人は心愛に近寄り、心愛にだけ聞こえるような小声で言った。

「―あとで…教えてよ」

その低く優しい声が、心愛を動揺させた。心愛の顔は、赤く染まっていた。

「心愛ちゃん、食べれる?お粥、作ったけど」博人は心愛を見つめた。
「博人さん、作ってくださったんですか?」
「うん、作ったよ。たっぷりの愛情込めて」
「んん、やだ、博人さんったら…恥ずかしい」心愛は照れていた。
「照れてる顔も、可愛いんだよな」
「もう、やめてください。そんなに褒めても無駄です」
「いいじゃないか、本当のことなんだから」
「もう~」心愛は頬を膨らませた。
「はあ…可愛すぎる」博人は心愛を抱き締めた。
「博人さん、博人さん、お粥…」
「ああ、そうだね。持ってくるよ」
「私も行く」心愛がベッドを下りようとした。
「だーめ。心愛ちゃんはここで待ってて」
「でも…」
「いいから。」博人は心愛の頭を撫でた。
心愛はこくりと頷いた。

「はい、持ってきたよ」数分後、博人が粥を持ってきた。
「ありがとうございます、博人さん」
「どういたしまして。ちょっと熱いから、気を付けてよ?」
博人は、粥の入った容器を手に持ち、スプーンで掬った粥を心愛の口へと運んだ。
「どう?」
「おいひい、です」心愛はとても幸せそうな顔で、微笑んだ。
「よかった。よし、ふーふーするから待ってね」心愛は頷いた。
博人はスプーンで掬った粥を、自分の息で冷ました。
「…いつまでふーふーしてんのよ」
黙って見ていた保乃果が、我慢しきれずに言った。
「いいだろ?いつまでやってたって。それに、心愛ちゃんは猫舌だし」
「そうなの?」保乃果が驚いたように言った。
「うん。そうなの…猫舌なの」心愛は、恥ずかしそうに笑った。
「そんなに猫舌?」
「うん、すごく…」
「へえ~」
「あ…!ほのちゃん、信じてないでしょ!」心愛は保乃果を見て言った。
「信じてない」
「ひどいよ~」心愛は困ったように眉を下げた。
「言い訳なんじゃないの~?博人にふーふーしてもらいたいって」
「そ、そんなんじゃ…」心愛の目が泳いだ。
「ふーん?」
「ふーんって…」
「で?実際の所どうなの?言い訳なの?それとも、ただの猫舌?」
「ほのちゃん…」心愛は俯いた。
「保乃果…!あんまり僕の心愛ちゃんをいじめるなよ」
「いじめてなんてないわよ。親友をいじめる人がどこにいるのよ」
「ほのちゃん、私ね」心愛が言った。
「半分は猫舌だけど、半分は言い訳なの。博人さんにふーふーして食べさせてほしくて…」
「…なるほど?」
「それに、博人さんがふーふーしてくれたものは、とってもおいしいの」
「だって。よかったねえ、博人」保乃果は笑った。
「うん、嬉しいよ、すごく…」博人は、心愛を見つめた。
「あらら、鼻の下伸ばしちゃって。変態」
「…うるさいな」
「それに聞いた?さっきの言葉。『僕の心愛ちゃん』だって」保乃果は心愛を見た。
「うん、聞いた。すごく嬉しい…僕の、だなんて…」心愛は博人を見つめた。
「心愛ちゃん、ほら食べよう」
「あっ、はい…!んん~!!おいしい~!」心愛は幸せそうに、博人が作った粥を食べた。
とてもおいしそうに食べるなあ、と保乃果は思った。
「よかった。…はい、あーん」
「あーん…」心愛は照れながらも粥を頬張った。
「おいしい?」
「はい。ふふっ」心愛は笑っていた。

「…見ていられないほどバカップル」
保乃果の呟きは、二人の笑い声に掻き消された。

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