希望の夢路
「こーこーあーちゃーん」
愛しい彼女の名を呼ぶ。
「なあに、ひろくん」
彼女は首を傾げて僕を見ている。
「ここにおいで」
僕は、膝を手でぽんぽんと叩いた。
彼女は嬉しそうに椅子に座っている僕に駆け寄り、僕の膝にちょこんと座った。
その姿がまた、とてつもなく可愛い。
僕は優しく、彼女を後ろから抱き締めた。
彼女は振り返って僕を見たが、照れくさそうに目を逸らした。
彼女と暮らし始めてまだ一か月足らずだけど、
とても幸せでゆったりとした時間を僕と彼女は過ごしている。
とても幸せだなと、心から思う。
けれど、時々思うことがある。
僕と一緒にいることが、本当に彼女の幸せなのだろうか、と。
もしかしたら、智也と一緒にいた方が良いのかもしれない。
彼女の夢と幸せのためにもー
「ひろくん、ねえ、どうしたの?」
彼女が僕を呼ぶ声で、僕は我に返った。
「何でもないよ」
彼女は僕の手を引っ張りながら心配そうに僕を見ている。
「嘘。ちゃんと言って」
彼女の真っ直ぐな目が、僕を射抜く。
この真っ直ぐな目に、僕は勝てない。
「幸せだなって。こうやって心愛ちゃんと一緒に暮らせて」
彼女の顔がぱあっと明るくなった。
「でも」
僕は天井を見上げて言った。
「でも?」
「時々思うんだ。これでいいのかなって」
「どういうこと?」
彼女は眉を下げ、じっと僕を見ている。
「智也と一緒にいた方が、心愛ちゃんのためにもいいと思うことが、度々ある。
心愛ちゃんと同い年で話も合うだろうし、何より心愛ちゃんの夢を叶えられるじゃないか。
夢を叶えるには、何かとあいつとー智也と一緒にいた方が良いことだってたくさんあると思うし」
彼女の作家になって本を出したいという夢を叶えられるのは、智也だけなのかもしれない。
智也は印刷会社の社長の息子だし、彼女の夢を叶えられる可能性は高い。
悔しいが、僕にはできない。
「智也といた方が、心愛ちゃんの夢は叶えられるよ、きっと」
「…嫌よ、そんなの」
彼女が小さな声で呟いた。
「心愛ちゃん?」
「嫌よ、そんなの…!」
彼女は僕の目をじっと見て叫ぶように言った。
彼女は目に涙を溜めていて、今にも泣きそうだった。
「どうしてそんなことを言うの…?私、ひろくんが大好きなのに…!」
「心愛ちゃん…」
「ひろくんは私のこと、好きじゃないの…?」
「好きだよ。大好きに決まってるだろ」
僕は彼女の顔を両手で包み、彼女を至近距離で見つめた。
「それならどうして、そんなことを言うの…?どうして、どうして…」
彼女は大粒の涙をぼろぼろと零した。
「心愛ちゃん…」
僕は彼女の涙を優しく拭った。
とめどなく溢れ出す彼女の涙を、僕は何度も何度も指で拭った。
「私、ひろくんに嫌われるようなこと…」
「してない」僕はきっぱりと言った。
「それなら、どうして…」
「心愛ちゃん、夢を叶えたいってずっと言ってたし、
僕だって叶えてほしいなって思ってる。
悔しいけど、智也の方が心愛ちゃんの夢を叶えられるんじゃないかって…」
「そんなの嫌!私、ひろくんと一緒に夢を叶えたいの。
ひろくんの隣で夢を追いかけて、叶えるの。私、ひろくんとじゃなきゃ嫌なの」
彼女が、そんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。
「私、ひろくんとだから頑張れるし、夢に向かって進んでいけるの。少しずつ、だけど…」
「心愛ちゃんは心愛ちゃんのペースで良いんだよ。急がなくていい」
「…うん!」
彼女は涙で濡れた瞳でにっこりと笑った。
「ごめん、もう言わないから。智也と一緒にいた方が、なんて」
彼女はこくりと頷いた。
「あいつになんか、絶対渡さないけど」
「ふふ」
彼女は笑っていた。
「ずっと、僕のそばで笑っていてほしい」
僕は真剣な顔で言った。
「うん。ひろくんも、私のそばでずっとずっと、笑っててね」
「もちろん」
僕は彼女を強く抱き締めた。
彼女がふふ、と笑う声と同時に、僕の背中に回った彼女の細い腕に力がこもっているのが、
僕にははっきりとわかった。
愛しい彼女の名を呼ぶ。
「なあに、ひろくん」
彼女は首を傾げて僕を見ている。
「ここにおいで」
僕は、膝を手でぽんぽんと叩いた。
彼女は嬉しそうに椅子に座っている僕に駆け寄り、僕の膝にちょこんと座った。
その姿がまた、とてつもなく可愛い。
僕は優しく、彼女を後ろから抱き締めた。
彼女は振り返って僕を見たが、照れくさそうに目を逸らした。
彼女と暮らし始めてまだ一か月足らずだけど、
とても幸せでゆったりとした時間を僕と彼女は過ごしている。
とても幸せだなと、心から思う。
けれど、時々思うことがある。
僕と一緒にいることが、本当に彼女の幸せなのだろうか、と。
もしかしたら、智也と一緒にいた方が良いのかもしれない。
彼女の夢と幸せのためにもー
「ひろくん、ねえ、どうしたの?」
彼女が僕を呼ぶ声で、僕は我に返った。
「何でもないよ」
彼女は僕の手を引っ張りながら心配そうに僕を見ている。
「嘘。ちゃんと言って」
彼女の真っ直ぐな目が、僕を射抜く。
この真っ直ぐな目に、僕は勝てない。
「幸せだなって。こうやって心愛ちゃんと一緒に暮らせて」
彼女の顔がぱあっと明るくなった。
「でも」
僕は天井を見上げて言った。
「でも?」
「時々思うんだ。これでいいのかなって」
「どういうこと?」
彼女は眉を下げ、じっと僕を見ている。
「智也と一緒にいた方が、心愛ちゃんのためにもいいと思うことが、度々ある。
心愛ちゃんと同い年で話も合うだろうし、何より心愛ちゃんの夢を叶えられるじゃないか。
夢を叶えるには、何かとあいつとー智也と一緒にいた方が良いことだってたくさんあると思うし」
彼女の作家になって本を出したいという夢を叶えられるのは、智也だけなのかもしれない。
智也は印刷会社の社長の息子だし、彼女の夢を叶えられる可能性は高い。
悔しいが、僕にはできない。
「智也といた方が、心愛ちゃんの夢は叶えられるよ、きっと」
「…嫌よ、そんなの」
彼女が小さな声で呟いた。
「心愛ちゃん?」
「嫌よ、そんなの…!」
彼女は僕の目をじっと見て叫ぶように言った。
彼女は目に涙を溜めていて、今にも泣きそうだった。
「どうしてそんなことを言うの…?私、ひろくんが大好きなのに…!」
「心愛ちゃん…」
「ひろくんは私のこと、好きじゃないの…?」
「好きだよ。大好きに決まってるだろ」
僕は彼女の顔を両手で包み、彼女を至近距離で見つめた。
「それならどうして、そんなことを言うの…?どうして、どうして…」
彼女は大粒の涙をぼろぼろと零した。
「心愛ちゃん…」
僕は彼女の涙を優しく拭った。
とめどなく溢れ出す彼女の涙を、僕は何度も何度も指で拭った。
「私、ひろくんに嫌われるようなこと…」
「してない」僕はきっぱりと言った。
「それなら、どうして…」
「心愛ちゃん、夢を叶えたいってずっと言ってたし、
僕だって叶えてほしいなって思ってる。
悔しいけど、智也の方が心愛ちゃんの夢を叶えられるんじゃないかって…」
「そんなの嫌!私、ひろくんと一緒に夢を叶えたいの。
ひろくんの隣で夢を追いかけて、叶えるの。私、ひろくんとじゃなきゃ嫌なの」
彼女が、そんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。
「私、ひろくんとだから頑張れるし、夢に向かって進んでいけるの。少しずつ、だけど…」
「心愛ちゃんは心愛ちゃんのペースで良いんだよ。急がなくていい」
「…うん!」
彼女は涙で濡れた瞳でにっこりと笑った。
「ごめん、もう言わないから。智也と一緒にいた方が、なんて」
彼女はこくりと頷いた。
「あいつになんか、絶対渡さないけど」
「ふふ」
彼女は笑っていた。
「ずっと、僕のそばで笑っていてほしい」
僕は真剣な顔で言った。
「うん。ひろくんも、私のそばでずっとずっと、笑っててね」
「もちろん」
僕は彼女を強く抱き締めた。
彼女がふふ、と笑う声と同時に、僕の背中に回った彼女の細い腕に力がこもっているのが、
僕にははっきりとわかった。