希望の夢路
「そんなはずない、心愛ちゃんは右目は見えるはず…」
僕は彼女の肩に手を置いた。
すると彼女はびくっ、と肩を揺らした。
「心愛ちゃん」
「ひろ、くん…?」
「僕がどこにいるか、わかる?」
「どこ…?」
彼女は僕が見えないのだろうか。
保乃果も僕も、君のすぐ近くにいるんだよ。お願いだから、わかると言って。お願いだから…。
「どこに、いるの?」
「…心愛ちゃん…!」
保乃果は目を大きく見開いて、口元を両手で覆った。今にも泣きそうだった。
「…見えないのか?」
彼女は僕の声のする方を見て、手をゆっくり伸ばす。僕の肩に、彼女の手が触れた。彼女は、僕の肩や腕を確かめるようにぺたぺたと触る。
うそだろ?右目も見えなくなったのか?

「目の前が真っ暗で見えない…」
真っ暗で、見えない…?
嘘だろ、完全に両目とも全盲になってしまったってことか?
そんな、そんなこと…。
「心愛ちゃん、見える?見えるよね?」
僕は彼女の肩を揺さぶった。
「ちょっと、博人、やめなさいよ…」
「見えないの…」
「うそだ。見えるはずだ。右は見えるだろ?下手な芝居はよせ」
「…っ!」
「見えるんだよな?わざとだろ?僕に気を向かせようと…」
僕は、彼女の右目が見えなくなっているという事実を、すぐには受け入れられなかった。だから、こんなに酷いことを言ってしまった。
「もう、いいです。博人さんには…私の気持ちなんてわからない。博人さんは保乃果さんと、お幸せに」
彼女はふらふらと立ち上がった。
彼女は、本当に目が見えていないようだった。
歩いている彼女を見ればすぐにわかった。目が本当に見えなくなってしまったのだと。
「いたっ…」
「大丈夫!?心愛ちゃん!」
保乃果は、彼女に駆け寄った。
僕は、ただ呆然と彼女を見ることしか出来なかった。
彼女は、転んでしまった。
道には、大きめのゴツゴツとした石があった。それにつまずいて転んでしまったのだ。普通なら見える。なのに、見えないんだ、彼女には。
彼女は保乃果に構わず血だらけの膝のまま、歩き出した。
しかしその時、運悪く元気な子供たちが走って彼女の方に突進してきた。
彼女は見えないから、距離感がよく掴めない。
「きゃっ…!」
勢いよく走る子供にぶつかった彼女は、地面に思いっきり倒れた。
「心愛ちゃん…!」
保乃果は彼女に駆け寄り、そっと起こした。
「ったく、あっぶねーなー!気をつけろって」
子供たちはそう言って走り去った。
「なんてひどい…!大丈夫?」
僕は、本当に、本当に彼女が何も見えなくなってしまったのだと後ろから見ていて気付かされた。


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