希望の夢路
彼女はなんとか玄関に辿り着いた。
嫌だと思った。離したくないと思った。でも彼女の決意は固い。
「あ、心愛さん。行きましょう」
「はい」
「…遥香?」
「ああ、ひろくん。久しぶり」
「えっ、あ、うん…」
「しばらく、心愛さんは私の家に居候ね。落ち着いたら、また二人で話せばいいわ」
「あ、ああ…」
遥香の家なら安心…だけど、胸がざわつくのは、どうしてだろう。
行かせたくないと思ってしまう。
離してしまったら、きっと彼女はもう二度と僕のところへは戻らないんじゃないかって不安になるんだ。
「私、もう博人さんとは会いません」
「そんなこと言わないの。ひろくん傷ついてるわよ?」
「そんなことありません。博人さんは、私が居なくたって生きていけます。私が居ない方が都合がいいんです。
博人さんは私のことなんて、愛してない」
僕は、彼女の言葉に心が張り裂けそうになった。泣きそうになった。
いやー、僕は今、泣いている。
遥香が目を見開いて驚いていた。
彼女には、僕が泣いている顔も傷ついた顔も見えない。
君がいない方が、都合が良いとはどういうことなんだ。
それに、愛していないだなんてそんなことないよ。僕は君のことを大好きなんだよ。ただ、少しだけ…道を間違っただけで…誘惑に勝てなかっただけで…。こんな風になるだなんて、思ってなかったんだよ。でも、君は行ってしまうんだね。…僕はいつでも、待ってるからね。
「心愛ちゃん、また、戻ってきて。
いつでも、帰ってきてね。待ってるよ」
僕は彼女にキスをした。
何度も何度も、別れを惜しむように。
ここはいつでも、君の居場所だからね。待ってる、君を。いつまでもー。

彼女は、僕に背を向けて遥香と出て行った。彼女の背が、心做しか震えていたのは、悲しいからなのだろうか。
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