希望の夢路
「で、でも…」
「心愛ちゃん、お願い」
しばらくの沈黙の後、僕は口を開いた。
「わかった。ごめん、今の忘れて」
僕は彼女から離れようとした。
しかし彼女は僕に手を伸ばし、何かを掴もうとしている。
「…あ、あった…ひろくんの、手…」
彼女は、僕の手が好きらしい。
僕の手をぺたぺたと触るのが好きなようで、まさに今、僕の手を触りながら撫でている。もしかして君は、足フェチならぬ手フェチかい?
「ふふ、ひろくんの手…」
大好き、と言って彼女はにっこりと微笑んだ。
「心愛ちゃん、離してくれないと…」
そうじゃないと彼女は着替えができない。着替えは、自分で出来るようなのだが。
「いや。そばにいて…」
彼女が潤んだ目で訴えるから、離れようにも離れられない。
「そんなこと言っていいの?」
「えっ?」
「さっきはちょっと…乱暴なことしちゃったし、悪いなと思って」
「そんな、そんなこと…」
乱暴なんかじゃない、と彼女が呟いた。
「ひろくん、よかったら、だけど…お風呂に入るの…手伝って……」
彼女は僕から目を逸らして顔を赤くして言った。
「いいの?さっきやだって言わなかった?」
「言ったけど…お願い。一人で入っちゃ危ないんでしょ?それなら…」
「わかった。嫌だなんて言うなよ?」
「うん、言わない。だから」
「よし、わかった」
そう言って僕は、来ている服を脱いだ。ネクタイを緩めて外し、ワイシャツを脱ぎズボンを脱いだ。
「ひ、ひろくん…?」
「心愛ちゃん、今度は君の番だ」
「どういうこと?」
「心愛ちゃん、僕は今、裸だよ」
「は、はだっ…!」
「ほら、触ってみてごらん」
「い、いや…いやよ、そんな…」
「いいから、ほら」
僕は、彼女の手を引っ張り僕の胸に当てた。本当は、本当は…胸じゃ物足りないんだけど今はこれで我慢しておく。
「あ…本当に…」
彼女は状況を理解したようだ。
「さ、君の番だよ」
そう言って僕は優しく彼女の服を脱がした。
「あ、っ、待って…」
「待たないよ」
焦る彼女の手を優しく握り、彼女の気持ちを落ち着かせる。
「いい?」
「うん…」
僕は彼女の服を脱がした。
「…して、ないんだ」
ブラジャーはしていない。
していないというより、するのが大変なのだろうか。見えない分、ホックをするのが大変なのだろうか。
それなら僕に言ってくれればいいのに。僕がいつでも君のブラジャーのホックを、掛けてあげるのに。
ーいや、ただ君に触れたいだけなんだけどね?
君に触れたくて仕方ないんだよ、僕は。

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