希望の夢路
「降りるよ〜」
私達は、とある駅で降りた。
「うわあ〜」
さちはるが急に声を出すから、驚いた。
「なによ、びっくりするじゃない」
「ごめん。でも、降りる時も大変だよね」
「確かに…」
大変だ。今まで私達は当たり前だと思っていたことだけど、心愛ちゃんにとっては当たり前じゃなくて、見えるということ自体が素晴らしいことなんだということに私達は今更気がついた。
駅を降りて、エレベーターを探す。
「あ、あったよ!」
さちはるが走り出すから、私も博人とさちはるの方へ走った。
「あー、楽だ〜」
さちはるは、ご機嫌だ。
どこまで呑気なんだ、この子は。
「これなら、心愛ちゃんも大丈夫そうね」
「うん、そうだね」
エレベーターのドアが開いた。
改札も、なんとか乗り越えられるんじゃないかな。
ぶらぶらと街を歩いていると、
「むむっ!」
と、さちはるが声を出した。
「どうしたの?」
むむっ、ってなによ。と笑いそうになったが、さちはるは眉間に皺を寄せている。可愛い顔が台無しだぞ。
さちはるが睨む視線の先には、
若い女性が三人ほど。
高校生か大学生くらいの若さで、ストレートロングの黒髪、栗色のロングヘア、それからダークブラウンのショートヘアの女性だった。
その女性達の足元を見ると…
「点字」
博人が太い声で言った。
「ほんとだ。点字踏んでる」
「なんてひどい!しかも、そんなことに構わず点字の上で話し込んでるし。もっと違うとこでできないの!?しかも道のど真ん中で!」
さちはるが、こんなに怒っているのを見たのは、初めてだ。
でも気持ちは分かる。
私だって今、とてつもなく腹が立っている。
一体何を考えているんだ!この子達は。
「きっと自分たちのことしか考えてないんだろうな」
「はあ、情けないわねえ。こんな人たちがいるかと思うと、腹が立ってしょうがない」
「わたしも」
さちはるがぎゅっと私の腕にしがみついて離れない。
…なんで?なんでさちはるが私の腕にしがみつくわけ?
ホラー映画見てるんじゃないんだからさ。
「ちょっとさちはる。いたい。いたいって。いたたたた!」
「あっ、ごめん、つい!」
つい!じゃないわよ。
痛かったなあ、もう…。

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