希望の夢路
彼女が、目を覚まさない。
ずっと、眠ったままだ。
このまま目が覚めない、
なんてことはないよな?

彼女の頬を撫でる。

「ううっ…心愛ちゃん…」

泣くまいと思えば思うほど、涙が溢れてくる。今朝、僕と彼女は喧嘩をしてしまった。
喧嘩なんてするつもりなかったのに。
彼女が何かを隠していることは、
少し前からわかっていた。
恐らく、彼女が元気がなくなって
様子がおかしいなと思い始めたあの日から。
彼女のことを思って聞いたのに、
彼女はなんでもない、の一点張り。
これじゃ埒が明かない。
そう思って僕は、取り敢えず
仕事へと向かった。
仕事をしていても
彼女のことが頭から離れない。
帰ったら謝ろうー
そう思っていた時だった。

僕の携帯が鳴った。
画面を見ると、非通知で全く知らない番号からだった。
誰からだ?と思いつつも
電話に出てみると、相手側の声から
緊迫した状態が伝わってきた。
「あの、望月心愛さんのお知り合いの方ですか?」
電話の向こうは、やけに騒がしい。
「はい、そうですが。失礼ですが、あなたは?」
「失礼いたしました。私は、救急隊員の多川と申します」

救急隊員?どういうことだ?
まさか、彼女に何かあったんじゃ…。
いや、まさか。
そんなことはあるはずがない。

「望月さんが、街中で倒れていると通報を受けまして駆けつけたのですが…」

何だって?彼女が、倒れている…?
通報?どういうことだよ、通報って…

「どういう、ことですか…?」
変な汗が額から頬へ流れていく。
大した暑くもないのに、汗が流れる。
「望月さんは、血を流して倒れていたんですよ」
「血を流して…!?」
「ええ。彼女は、左手、左足首と右足首、それから右腕を負傷しています」
「あ、あの、重症ではないんですか?」

重症でないと、言ってほしい。

「ええ。幸い、重症ではありません。
ですが…」
「あの…他に何か…問題とか」
救急隊員は、少しの間沈黙した。
余程言いづらいことなのだろうか。
「意識がないんですよね」
「い、意識が!?」

嘘だろ?意識がないだなんて…。

「ええ。ショックだったんでしょう」
「ショック?ショックって…」
「望月さんは、三人組に絡まれて暴行されたんです」
「えっ、三人組?暴行されたって…」
「はい。大人しい望月さんをいいことに、暴行されていたと」
「三人組って、男ですか?」
「いや、女性です」
「女性?」
「ええ、女性です。かなり暴言を吐かれていたようで」

暴言を、吐かれていた?
僕の頭は混乱している。
とにかく、落ち着け。
まずは、彼女のところへ行かなきゃ。
「あの、今からそちらへ行ってもよろしいでしょうか」
僕は、電話を切り急いで彼女が横になっている救急車のいる場所へと向かった。

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