希望の夢路
私と彼は、ベッドに腰掛けた。
彼が私の手を引きベッドに座らせた様子を見て、遥香さんが声を出した。
「う〜ん」
「遥香、何その声は。男が女に甘えるかのような艶っぽい声出して。心の声が丸聞こえよ」
「だってさあ〜私もこういう風にされたい!手を握って、ゆっくりと座らせる。いいなあ、心愛さん」
「要するに羨ましいのね」
「ほのちゃん!そりゃあ、当たり前じゃないの!」
「遥香が保乃果を揺さぶってるよ」
彼は私の耳に口を近づけ囁いた。
どきどきする。
彼は、私をどきどきさせようと
わざとこんなことをしているのかな?
そうだとしたら、確信犯。

「まるでお姫様が王子様にエスコートされるみたいじゃない!ああ〜いいなあ〜」
「いつまで夢物語を見ているの。はいはい、現実に戻ってきてよ〜」
ほのちゃんが、ぱんぱんと手を叩いた。
「え〜やーだ!」
「…子供かっ!」
ぺしっ、と音がした。
「いったーい!ほのちゃんどうして
叩くの?いたいよお~〜」
「ちょ、やめてよ!そんなスリスリすんの!」
「保乃果、照れてるよ」
「だから!照れてないし。っていうか、また報告…」
「いいじゃないか。その方が心愛ちゃんだって、状況を把握できるだろ?」
「それはそうかもしれないけど」

「ごめんね、ほのちゃん」
私が急にそう言うから、ほのちゃんは驚いてしまったみたい。
「えっ、なんで心愛ちゃんが謝るの?」
「私が目が見えないばっかりに、ひろくんにも迷惑かけちゃうし、いちいち報告みたいなことされるの、嫌だよね。ごめんね」
「い、いや、そういう意味で言ってるんじゃないのよ」

ほのちゃん、焦ってるかな?
でも、これは本当に私が思っていること。

「ひろくんは優しいから、私に報告してくれるの。私が見えないから…」
「心愛ちゃん…」
ほのちゃんの凛とした声が響く。
「ごめんね、心愛ちゃんの気持ちも考えずに、私…」
「ううん、ほのちゃんは悪くないの。悪いのは、目が見えない私…」
「心愛さん…」
遥香さんの声が次第に沈んでいく。
黙りこくって俯く私を見て、私を励まそうと思ったのか、彼がこんなことを言い出した。
「もし外に出られるとしたら、心愛ちゃんはどこへ行きたい?」
「そ、それ、は」
怖い。怖いよ。
まだ私、心の準備ができてない。
私は大人しく家にいた方が良い。
それにお洒落だなんてする権利なんてない。
外に出たって、周りからは好奇の目で見られて馬鹿にされる…。


< 189 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop