希望の夢路
「これは、仮の話!行くかどうかは別として!」
ほのちゃんが明るい声で私に声をかけた。
「仮の、話」
「そうそう!心愛さん、もし行けるとしたら…?」
「服を買いに行きたい。可愛い服。
靴も買いたいし…あとは、文房具かな」
「なるほどなるほど」
遥香さんが、うんうんと言っている。
「やっぱりそうよね。女の子だもん!お洒落したいよね〜!」
ほのちゃんが、自分のことのように
きゃっきゃ、と笑っている。
「うん、でも」
「でも?」
彼が聞き返した。
「私、お洒落するような立場じゃない」
「心愛ちゃん…」
彼が、私の右手をぎゅっと握った。
はっとして横にいる彼の方を向いた。
横を見ても、相変わらず真っ暗な世界だから彼の姿も何も見えない。
「震えてる」
彼はそう言って私の左手を優しく引っ張り撫でた。
私の左手はまだ完治しておらず、
包帯はまだ巻いたままだった。
「ごめん…」
「謝らなくてもいいんだよ」

「誰が決めたの?お洒落しちゃだめだって」
「遥香…」
「そうそう、遥香の言う通りよ!そんなの、他人が決めたことでしょ。
そんなこと関係ない。自分がこうしたい!って思ったらそれを貫き通すまで。そんなことで負けちゃダメよ」
「でも…」
私は唇を噛んだ。
「…とにかく、女の子なんだから服たくさん買っちゃお!靴も気に入ったのがあれば。ね〜?博人」
「うん、そうだな」
「心愛さん、たーくさん買っちゃいましょ!私の店に来てっ!安くしとく!」
「…セールス」
ほのちゃんが低い声で言った。
「そうだな。遥香のところへ行ってみるか。前は、心愛ちゃんが服を突き返したから買えなかったし」
「それは、ごめん」
私は頭を下げた。
「でも、私見えないからどんな服なのかもわからないし、買い物だってできない。スーパーに行ったって、何があるかなんてわからないし」
「それなら、僕と行けば大丈夫だよ。ゆっくり、ゆっくり進んでいこうね」
「ごめん、ひろくん…私、私、ひろくんにばかり…」
彼は私の頭をぽんぽんしてくれた。
それから、私の後頭部を自分の胸に引き寄せた。
「そんなことは気にしなくていい。
僕が好きでやっていることだ。
何も心配することはないよ。
ゆっくり、ゆっくりでいい」
「うん…」
私は彼の胸に顔を押し付けた。
私は涙を流した。
少しでも彼の役に立てるように、
しっかりしなきゃ。

「ああ、良い彼氏だわ〜」
「はいはい。うっとりしない」
「だってさあ〜」
「はいはい」
「もー!そうやって聞き流すの、ほのちゃんの悪いとこ!」
「それはどーも」
「もーっ!」
遥香さんは頬を膨らませている。
彼からまた、報告の声が降りてくるのだった。
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