希望の夢路
本当はすぐになんて行けないと思っていた。しかし、彼女の願いを叶えたいと僕は有給を取って今、彼女とデートをしている。有給消化にはちょうどいい。休まずに仕事をしていてよかった、なんて思っている自分がいる。

彼女には日帰りで帰ると言っているけれど、実はお泊まりデートなんだ。泊まるつもりで、色々と準備をした。
彼女には何も言っていないから、最低限のものしか持たないように言ってある。僕はというと、少し荷物が重い。
大荷物ではないが、何故だろう。
ものすごく重く感じてしまうのは。

それはきっと、彼女の行きたいと思ったところへ行けるから。そして、隣に大好きな彼女がいるから。だから、こんなに胸がいっぱいなんだ。

泊まるのは、一週間ほど。
ホテルも予約してある。
支笏湖のすぐ近くにある外観の美しいホテル。目の前の支笏湖を一望できる。そんな素敵なホテルー

だけれどもー


「高いな」

高いと言っても、一泊で2万円ほど。
そりゃあそうだ。目の前に支笏湖が見えるホテルだなんて、豪華すぎる。
いやー贅沢すぎる。
そんな一番眺めの良い場所に泊まるのだから、値は張るのだろう。

「一週間で…?20万くらいか?」

意外と、懐が痛い。
仕事も休まずに働いているし、それなりの給料は貰っているが、さすがにこんな金額を出す羽目になるとは思わなかった。日帰りの方がいいかもしれない、と思ったが、なかなか旅行になどこれるものでは無い。せっかくだから、景色の良いところで彼女と羽根を伸ばそう。僕はそう考えていた。


「高いけど……いいか。心愛ちゃんのためと思えば…」

そう自分に言い聞かせるが、

「ああ、やっぱ、高い。…仕方ねえ…」

そう呟き迷った挙句に、僕はホテルを予約した。


そして今、僕は彼女の温もりを感じながら、最終目的地までの景色を見つめていた。



「心愛ちゃん、心愛ちゃん。起きて」
「ん〜〜」
なかなか目が覚めない彼女を優しく揺すると、彼女がようやく目を開けた。
「もう着いたよ」
「えっ?あ、本当だ。ごめん、私…!」
彼女が勢いよく立ったが、ふらついた。
「大丈夫ですよ、ゆっくりで」
バスの運転手が、彼女にそう語りかけた。
「ありがとうございます。えっと…」
「大丈夫だよ。もう払ったから」
「そうなの?ごめん、私が起きなかったから…」
「大丈夫だよ、さ、いこ」
「うん」
そう言って、僕は彼女の左手をしっかりと握り歩き出した。
彼女は、運転手にお礼を言ってバスを降りた。






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