希望の夢路
バスを降りると、すぐにホテルが見えた。こんなに近いのか、と僕は驚いた。そして、その遥か遠くには綺麗な水色の湖が見えた。

(あれが支笏湖か…綺麗だな)

そう思いながら、僕は彼女の手を握り階段を一段ずつ降りていく。
湖の見える方へ歩いていくと、土産物店やら食堂やらが並んでいた。
更に奥へと進んでいく。

また階段がある。石造りの階段。
降りるのは大変そうだ。
お姫様抱っこをした方が確実だ。
そう思い先にある階段を降りようとするが、観光客が多いため、観光客を先に行かせてその後に彼女と降りようとした。


しかしー


「心愛ちゃん!」

待って、と叫ぶ前に彼女は杖を床に落としてしまった。彼女は僕からすっと手を離し、階段を駆け下り走り出した。僕は何が何だかわからず、地面に落ちていた彼女の杖を持って彼女を追いかけた。



やっと彼女に、追いついた。


いきなり走り出すだなんて思いもしなかったから、驚いたけど何事もなくてよかった。怪我もしていないみたいだ。

ほっとしたのもつかの間、何故彼女がいきなり走り出したのかという疑問が生まれる。目は見えないのに、何故階段を駆け下り、走ることが出来た?
それだけが、腑に落ちない。

彼女は、きょろきょろと辺りを見回して目をきらきらさせている。
彼女は支笏湖が目の前に見えるところに立っていた。近くには、大きめの木で支笏湖と書かれた看板があった。

僕は、彼女の隣に並び、右手を握った。彼女は驚いて僕を見たが、すぐに笑顔になった。

「心愛ちゃん、だめだろ?僕から離れちゃ。危ないじゃないか。怪我はしてないみたいだからよかったけど、心配だから僕から」
「ねえ、ひろくんっ!」
僕の言葉を遮って彼女が明るい声を僕に投げかけた。
「ん?」
「こっち来てっ!」
「えっ!?ちょっ…」
彼女が、僕の手を引っ張って走り出した。彼女は、近くにあった橋を渡り数段の階段を難なく降りた。
そして再び、支笏湖に近づけるギリギリまで近づいて、木の柵に両手を置いた。

「心愛ちゃん、危ないだろ!?」
そう言って彼女の肩をがっしりと掴んだ僕を見て、彼女は悲しい顔をした。
「ごめんなさい…」
彼女はしょんぼりとして支笏湖を見た。
「僕は、心愛ちゃんが心配なんだよ。大好きな心愛ちゃんにもしものことがあったら…」
「もう大丈夫」
「え?」
僕は、彼女の言っていることがわからなかった。

大丈夫とは、どういうことだ?


彼女はぎゅっと僕に抱きついた。



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