希望の夢路
僕は、彼女の名を呼んだ。

「心愛ちゃん」


彼女が目を細めて返事をする。


僕がこれから何をしようとしているか、わかるかい?心愛ちゃん。


僕は、心愛ちゃんの目の前で跪く。


「ひろくん?どうしたの?」

彼女の驚いた顔が頭上にある。


僕はポケットから、そっと『あるもの』を出した。

「それって…」

彼女が真っ先に反応する。


僕は手のひらに乗せたその小さく白い箱を、手で開いた。

「わあ……!!」

彼女が、驚いて思わず甲高い声を上げた。その声に周りで支笏湖を眺めていた人や辺りを散策していた観光客が彼女の方を見た。恐らく、僕も見られている。

緊張はしている。

けれど、そんなことは気にならないくらい、彼女への強い気持ちを伝える覚悟は出来ている。

もしも断られたらという不安がないといえば嘘になる。でも、僕は彼女との未来を見続ける。

だからこそ、僕は今ー


「ひろくんっ…!」

彼女が口元に両手を当てて、目を潤ませながら僕の掌にある物を見ている。

真上にある太陽の光できらりと反射する、宝石。


「うそ、どうして…?」

彼女は混乱しているようだ。


「心愛ちゃん、聞いてくれる?」
「うん」
「僕はずっと、心愛ちゃんと一緒にいたいって思ってる。これまでも、これからも」
僕は、跪きながら彼女を見つめる。
「いろいろと傷つけてしまったし、辛い思いもさせてしまったかもしれない。でも、僕には心愛ちゃんが必要なんだ。心愛ちゃんがいないと、僕は生きていけない」
彼女は、その場にゆっくりとしゃがみ込んだ。しゃがみ込んで、僕の手にある光り輝く宝石に触れた。

「ひろくん…これって、指輪…」
「そうだよ」
「婚約、指輪?」
彼女が首を傾げるから、僕は頷いた。


(まあ、もう少しで結婚指輪になるけどね)

そう思いながら僕は、彼女に一番伝えたい言葉を口にした。









「心愛ちゃん、僕と結婚してください。僕が一生、幸せにします。僕と一緒に、未来を作りましょう。明るく眩しい、希望の夢路を」


「ひろくんっ……!!」

彼女は感極まった様子で、一筋の涙が零れた。

すぐに、イエスと言ってくれないのか。そりゃそうだよな。いきなりこんなこと言われて、しかもこんな人前で言われたら答えづらいよな。
ホテルの部屋ですれば良かったかな、
プロポーズ。


そんなことを考えていると、
彼女の綺麗な声が僕に届いた。


「私でいいの?本当に、私で…」
「いいに決まってるから言ってる」
「ひろくん……」
彼女は俯いてしまった。

やはり、まだ早かっただろうか。
サプライズは、失敗、かな。

「ごめん、心愛ちゃん。早かったよね。いきなりこんなこと言うなんて…言いづらいよな。ごめん」
「いやです」
「そうだよな。いやだよな、ごめん。今の忘れ…」
「違うの、そういうことじゃなくて」
「え?」
僕は目を丸くした。
「嬉しい。ありがとう、ひろくん」
「えっ、え?うーんと、つまり…?」

受け入れてくれたってことか?
もう少し、君の気持ちを知りたいよ。
教えてくれよ、心愛ちゃん。







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