希望の夢路
「ひろくん、すごく嬉しい。ありがとう…よろしくお願いします」
彼女はぺこりと頭を下げた。
「本当に……?」
驚きのあまり、いいのか、と言う言葉が出なかった。断られたとばかり思っていたから、尚更驚いて言葉が上手く出てこない。
「うん。こんな私だけど、ひろくんのお嫁さんになりたい」
「えっ……本当に…」
こくこくと頷く彼女。

嬉しかった。そんなふうに思ってくれていたなんて。でも、どうして困ったような顔をしていたんだ。

「でもさっき、困ってたような顔してただろ?」
「そ、それは…信じられなくて」
「何が?」
「ひろくんが私にプロポーズだなんて…思ってもみなかったし」
彼女は顔を赤くして言った。
「心愛ちゃん、いいんだな?本当に」
「うん。ひろくんじゃなきゃ、や〜だ!」
子供のように笑いながら、僕の親指をつんつん、とつつく。
「なんだよ?」
「指輪、してもいい?」
「もちろん。っていうか、そのつもり」
僕は、彼女の右手の薬指に指輪をはめた。

「綺麗……」


彼女は指にはめられた、僕が買った指輪を目を輝かせて見つめている。
僕の見立て通り、彼女の指にぴったりとはまった。
彼女の指は他のどの女性よりも細くて、サンプルのサイズでもなかったから特注品を作って貰った。特注だからこそ値段はとても高かったのだが、彼女の喜ぶ顔を見られるなら万々歳だと、そう思ったのを思い出す。

それにしても、高かったな…。


「ごめんね、ひろくん」
彼女が急に謝るから、不思議に思った僕は理由を尋ねた。
「だって、いつもひろくんに迷惑かけてばかりで、私何も出来てないし…。
ひろくんにも苦労ばっかりかけたでしょ?私、見えなかったから。それに、難病の私の世話も文句も言わずにしてくれて…」
「大丈夫だよ、そんなの苦労のうちに入んないから。好きでやってたことだし。それに…僕は、心愛ちゃんがそばにいてくれるだけで幸せだから。もうどこにも行くなよ」
彼女はうん、と言って微笑んだ。

「心愛ちゃん」
「ん?なに?」
「この指輪、一生外させないからな」
「ひろくん…」
「わかった?」
「うん、外さないよ。私の宝物だもん」
「僕の宝物は、心愛ちゃんだよ」
「私の宝物も、ひろくんだよ〜っ!」
「僕らの愛は、永久不滅」
「ふふっ、かっこいい〜っ!」

僕は彼女の両手を握って、立たせた。
指輪が入っていた小さな箱は、既にポケットにしまっていた。




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