希望の夢路
「何だよ、それ。曖昧だな」
「ごめん、でも、ただそう思っただけで…」
それは、僕に対しても同じだ。
僕への想いに限らず、自分の思ったことをもっと口にしてほしい。我慢せずに。
「仲の良い兄妹(きょうだい)だねえ」
マスターが目を細めて言った。
「あの、僕たち、恋人なんです」
「ああ!ごめんよ!お嬢ちゃんがあまりにも若く見えたからさあ」
マスターは申し訳なさそうに彼女を一瞥した。
「いいんです。その通りですから」

だんだんと、空気が重くなってきた。
まずい、どうにかしてこの流れを変えないと。
「ま、マスター!あの、僕、コーヒーお願いします」
「あ、ああ!はい、かしこまりました」
マスターは慌てて頭を下げた。
彼女はというと、平然としてはいるが少なからずへこんでいるようだ。
今にも溜息が聞こえてきそうだ。
「はい、おまちどうさま」
「ありがとうございます」
僕はマスターに微笑んだ。
「心愛ちゃんはどうする?何か飲む?」
「どうしようかな」
「いろいろあるよ?ほら、お茶もあるし、紅茶も」
「うん」
「紅茶は飲めるんだっけ?」
「うん、飲める」
「じゃあ、紅茶にする?」
「うーん、」
「あ、ホットミルクもココアもあるんだ…」
彼女はメニューをしばらくじっと見ていたが、頼むのをやめた。
「頼まないの?勿体ないなあ」
僕がため息をついたのを、彼女は見逃さなかった。
「呆れた?」
「呆れてなんてないよ」
「嘘」
そう言って彼女は、テーブルに突っ伏した。
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