希望の夢路

憧れの彼

悔しいが、彼女の中では『彼』の存在がとてつもなく大きく偉大なもののようだ。

―悔しい。彼女にとっての一番は、僕であってほしい。
なのに、『彼』の存在が恋人の僕より大きいだなんて。
嫉妬する必要はないということはわかっていても、嫉妬してしまう自分がいる。
やきもちを妬いてしまう僕の気持ちを、果たして彼女は理解しているのだろうか。
恐らく、理解してはいない、と思う。

僕の一番は彼女だけなのにー。

彼女の一番は僕であってほしいという想いが、強くなる。
これは、独占欲とでもいうのだろうか。
全く。どこまで僕をやきもきさせれば気が済むんだ。
当の本人は、聞いてもいないのに何食わぬ顔で『彼』について笑顔で語っている。

「シゲくんが、短編小説を出すみたいなんです!
すごく楽しみで…早く発売日が来ないかなあ」

恋人の僕には『さん付け』なのに、憧れの彼は『シゲくん』と呼んでいるのか。
悔しい。僕だって、ひろくん、とか、ひろとくん、って呼ばれたいのに。
付き合って半年も経つけど、彼女はまだ僕のことを『さん付け』で呼ぶ。
なかなか、愛称で呼んではくれない。
彼女は、なかなか先へ進むことができない。前へ進むことを、躊躇っている。
きっと、怖いのだろう。進んでしまったら、後戻りはできなくなる。
だから、怖くて一歩を踏み出せない。
彼女と僕の間に立ちはだかる、見えない厚い壁。

どうしたら、どうしたらこの壁を壊せる?


この壁さえ壊すことができたら、きっと僕と彼女はもっと深い絆で結ばれ、
楽しい日々を過ごしていける。彼女に僕の隣でずっとずっと、笑っていてほしい。
だから、どんな壁も絶対に壊してみせる。

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