希望の夢路

幸福な昼寝

「こーこーあーちゃーん」
「…」
「心愛ちゃん」
「ん…」

愛しい人の、声がする。

「心愛ちゃんってば。ねえ、起きてよ」
優しくて、温かくて、かっこいい。私の、大好きな声。
「うーん…」
「全く…仕方ないなあ…」
髪を、優しく撫でられた気がする。
「心愛ちゃん、起きてよ」
愛しい彼の大きな手が、私の小さな手を包み込む。
彼の手は、とても温かい。

私は、ゆっくりと目を開けた。

「んっ…!?」
私は、目を丸くした。
「ん?どうした?」
「ど、どうしたって、その…」

顔が、近い。
今にも唇が触れてしまいそうなくらい近くに、
彼がいる。
「ち、近いです…」
「そりゃあそうだ。近づけてるんだから」
彼は、私をじっと見つめて言った。
「それにしても近すぎます…!」
私は、無駄な抵抗をした。
「そうかな?」
「そうです、近すぎます」
「いいじゃないか、近くたって」
「それは…」
「嫌かい?」
―もう、ずるい。そんな聞き方、ずるい。
私の言いたいこと、わかってるくせに。彼は、ちょっとだけ意地悪。
その意地悪でさえも嫌じゃないのは、私が彼にベタ惚れだという何よりの証拠。
「もう、嫌なわけないじゃないですか。博人さん、ずるい」

少し、拗ねてみる。

「心愛ちゃん」
私は、彼を見た。
「ごめんよ。心愛ちゃんをずっと近くで見ていたいから、つい。
心愛ちゃんがあまりにも可愛いから、つい意地悪したくなっちゃうんだ」
「可愛くなんかありません」
そう、私は美人でもなければ色気の欠片もない。
他の女(ひと)みたいに、器用じゃない。
「そんなことないよ。心愛ちゃんは可愛い」
「そんなこと…」
「ある」
彼はそう言って、私の顔を両手で包んだ。
私は思わず、彼の手に触れた。
「やだ…博人さんったら」
「心愛ちゃん…」
彼は、優しく私の頬を撫でた。それがかえって気持ち良くて、私の眠りを誘う。
「眠くなってきちゃったあ」
「だめだよ、寝ちゃ。もう十分、ぐっすり寝たろ?」
「まだ、もうちょっと、眠い。」
「だーめ。寝たらまたぐっすり、ずっと寝ちゃうだろ?
寝顔も可愛いけど、つまらないじゃないか、寝てばっかじゃ」
「博人さんも一緒に寝ましょ?」
「僕もかい?」
「はい。こうやって…」
私は、彼の胸に顔を埋めた。
とても温かな、彼の胸。逞しい男の人の、筋肉質な胸。
「あたたかい…」
「心愛ちゃん…」
彼は、私の背中に腕を回した。
「よし、僕も寝ようかな」
「ふふ、お昼寝」
「うん、昼寝」
私と彼は、互いの温もりを感じながら、いつの間にか眠っていた。


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