希望の夢路
十分後、喫茶店のドアが開いて一人の女性が入ってきた。
走って来たのか、だいぶ息が切れている。
喫茶店のドアに下がっている鈴が、大きく左右に揺れた。
「はあ…はあ…つか、れた…」
黒髪のショートヘアの女性は、その場に息を切らして立っていた。
その女性は、黒のショートブーツにピンクのワンピースを着ていた。
彼女は痩身で、モデルのような体型をしていた。
見た目から柔らかさが滲み出ている。

「心愛ちゃん…!」
博人は彼女を見るなり立ち上がり、駆け寄った。
「ひろ、と、さん…」
彼女はまだ、肩で息をしていた。
「とにかく、座って息を整えて。ね?」
博人はさりげなく、しかししっかりと彼女の手を握り、
自分が座っていた椅子に彼女を座らせた。
博人は彼女の隣に座り、彼女の背中をさすっていた。
博人が彼女を見つめる目は、とても優しかった。

保乃果は、そんな博人をただじっと見つめていた。
私にはそんなに優しくないのに。私にはそんな優しい目をしないのにー
保乃果は損をしたような気分になった。
「あなたが、博人の彼女?」
保乃果はあくまでも冷静に、博人の隣に腰を下ろして言った。
「えっ…あっ…はい…」
彼女は怯えたように言った。
「あなた、博人のこと本当に好きなの?」
「えっ…?」
「嘆いてたわよ、博人。彼女が甘えてくれないって」
「保乃果、やめろよ」
「だって本当のことじゃない」
「いや、それは…そうだけどさ」
彼女は眉を下げ、困ったような顔をした。
「それに、大人しくてなかなか自分の考えを言ってくれないから
何を考えてるかわからないし、つまんないって」
「…!」
彼女は目を見開いた。
みるみるうちに彼女の顔は悲しみに染まっていく。
彼女は、今にも泣き出しそうなほど目に涙を溜めていた。

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