希望の夢路
「もう…」
博人さんったら、と彼女は顔を赤くしながら言った。
「ごめんよ」
「ねえ、博人さん」
彼女は床をじっと見つめた。
「何だい?」
「博人さんの手…大きくて、とても温かくて…」
「そう、かな?」
彼女は僕の手を見た。
「はい。すごくあったかいの…。私の大好きな、温もり」
「心愛ちゃん…」
「それに…とても大きな手…男の人の、大きな手…。
博人さんに手を握られると、すごく幸せな気分になるんです。
これが夢なんじゃないかってくらい」
「夢なんかじゃないよ」
そんなことを言われたら僕から手を握るしか、ないじゃないか。
どれほど僕を乱せば、気が済むんだ。
「どきどきしてしまうんです。博人さんに手を握られると。
男の人を感じてしまって…。大きくて逞しい博人さんの手を見ていると、
すごくどきどきして…」

彼女はいつも、僕を狂わせる。

「私の手に、博人さんの大きくて温かい手が重なると…とても幸せで…」
彼女は恐る恐る手を伸ばした。
僕の手に近づく、小さな手。
僕の手に触れるかと思いきや、直前で小さな手の動きが止まる。
彼女は、躊躇っている。
躊躇うことなど、何もないのにー。
もう少し、もう少しだ。あと一歩だよ、心愛ちゃん。

その一歩が、なかなか踏み出せない。
彼女の手が、再び僕の手へと伸びる。
しかし、僕の手に触れた瞬間、はっとしたように彼女は手を引っ込めた。
彼女の手が震えている。
「ご、ごめんなさい、私…」
彼女は震える手をもう片方の手で押さえた。
「なんで…?なんでこんなに…震えちゃうの?
怖いわけじゃないのに…なんで、なんで…?」
彼女は震える手を見て言った。
彼女は一度も男と付き合ったことがない。
男に触れられるのも、初めての経験。
何もかもが、初めて。
だからこそ、僕は大切にしたいんだ、彼女を。
「なんで…?なんで止まらないの…?なんで…?」
僕は、震える彼女の手を、優しく包みこんだ。

「大丈夫。大丈夫だよ、心愛ちゃん」
「ごめんなさい、私…。私、どうして博人さんの手を握れないんでしょう、
こんなに好きなのに…。握りたいって、博人さんの手、握りたいって思ってるのに…」
「心愛ちゃん」
「どうして…?どうしてなの…?どうしてー」
僕は、パニックになっている彼女を抱き締めた。

「大丈夫だよ、心愛ちゃん。」
「でも、でもっ…!」
「急がなくていい」
「でも…」
「ゆっくりでいいんだよ、心愛ちゃん。ゆっくりゆっくり、心愛ちゃんのペースで良いんだ。」
「博人さん…」
彼女は、僕の胸に顔を寄せた。
僕は、彼女を抱き締める力を強めた。
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