希望の夢路
「私達、人間じゃない」
「じゃあ、なんなんだよ」
「私達は、病魔」
「病魔?」
「そ。心愛の体に巣食う病魔、それが私と姉ちゃん」
楊香が顔を上げて彼を見た。
「病魔って…本当に、君たちが心愛ちゃんを蝕む…病魔なのか?」
「そういうこと」
楊香は視線を緑の地面に向けた。
「美しすぎだろ」
「えっ?ほんと?嬉しい、博人!」
楊香は、ばっと顔を上げたかと思うと、ものすごい勢いで彼に突進した。
「おっとっと」
彼はまたしても楊香を抱き留めた。
楊香は嬉しそうに博人を見つめている。
自分の彼氏を、病魔といえども人間の形をした楊香に誘惑されるところを見て
気持ちがいいわけがない。
男って情けない。

「あ…」

溜息をついた私に気付き、彼は楊香を離そうとしたが、楊香はなかなか離れようとしない。
私は、ただ綺麗な青空を見上げるだけで、楊香から彼を引き離すことはしない。
そんなことしたって、意味ないし。
ひろくんは、私には勿体ない人だ、住む世界が違いすぎるという重荷は、
一生私が背負わなければならないと思う、きっと。
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