希望の夢路
彼の手を離したーけれど、私の手は彼の手と繋がったまま離れない。
あれ?どうして?私、彼から手を離してー
「誰が手を離していいと言った?」
驚いて顔を上げると、私の手は彼にしっかりと握られていた。
「僕は一言も言ってないよ。僕の手を離していい、だなんて」
私の手を握る彼の手に、力が籠る。
痛いくらいに、ぎゅっと握られ手を絡められた。

「だって…私病気なのよ?」
「…それがなんだよ」
「えっ?」
彼からの言葉に、私は呆然とした。
まさか、彼からこんな言葉が出てくるとは思わなかった。彼はとても優しくて素敵な人だけど、私が病気だと知ったら距離を置くものだと思っていた。
だってどんなに好きな人でも、病気だったり何かしら問題を抱えていたりしたら、逃げ出したくなるだろうし関わりたくないと思うのが普通の人だと、信じて疑わなかったから。病気の人と一緒にいたいだなんて、そんな物好き、なかなか居ないと思うし。

「大好きな心愛ちゃんには変わりないよ」
「ひろ、くん…」
「病気がなんだよ。大好きな彼女に変わりはないからな」
彼の言葉に、涙を零しそうになったが
泣き顔を見られたくない私は必死に我慢した。
「そんなんで恋人を手放すような男は、その程度の奴ってことだろ」
彼は私の手を引っ張った。
「あ、っ…!」
彼の力強さに驚いた私は、彼の胸に飛び込んだ。
「ご、ごめん、ひろくん…」
彼の胸から離れようとしたら、きつく抱きしめられた。息もできないくらい、きつく。

「ひろくん…苦しいよ」
彼は、黙ったままさらに強く私を抱きしめる。
「んんっ、ねえ、ひろくんったら。
苦しいよ、ねえ…」
きつく抱きしめられて苦しかったけど、とても嬉しかった。
彼にこんなにきつく抱きしめられたのは、初めてな気がする。
「心愛ちゃん」
「なに?」
「絶対離さないから」
「ひろくん」
「何があっても離さないから。僕から絶対に離れるなよ」
涙が出るほど嬉しかった。
「ありがとう、嬉しい」
「ん、」
彼はようやく、私を解放してくれた。
「でも」
私の言葉に、彼は眉間に皺を寄せた。
「でも?なんだよ」
私の不安は、払拭されない。
たぶん、これから先もずっと不安になるんだろうと思う。
こんなに愛されているのに、私はまだ不安なんだ。
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