希望の夢路
「いや、確かに言ったけど…」
「かまってくれるんでしょ?私せっかく手伝ってあげたのに」
「わかったよ、仕方ないな」
僕は溜息をついた。楊香はいつも、意地っ張りで我儘。
「私の願い聞いて」
「いいよ。なに?」
「ふふふ」
楊香が怪しい笑みを浮かべるから、背筋が凍る。一体、何を考えているんだ。
「何も、難しいことをしろっていってるわけじゃないの」
「じゃあ、何をすればいいんだよ」
「そ、れ、は」
すやすや眠る彼女の横で、楊香は僕に馬乗りになった。
僕はー押し倒されている?
この状況は、圧倒的に不利だぞ。
「わかるわよね?ひ、ろ、と」
楊香は、僕の顎に手を添えて細い指で僕の唇をなぞった。
「お、おい…な、なにしてんだよ…」
「ご褒美、くれるんじゃないの?」
「いや、その…」
「私の言うこと、わかるわよね?」
「あのな、楊香」
これ以上は言わせないと言わないばかりに、楊香は僕の唇を塞いだ。
静かに唇が離れると、照れながらも、してやったりというような顔をした楊香がいた。
「おい…なんでこんなこと」
「だって博人がご褒美くれないんだもん」
「あのな…」
「博人がご褒美くれてたら、私からしなくて済んだのに」
「そういう問題じゃないだろ?」
「別に心愛がいたっていいじゃない。
私、心愛に負ける気しないし。博人なんか、心愛に渡さないもん!」
変なところで嫉妬心を燃やしている楊香。心愛ちゃんはというと、ぐっすり寝ていたから少しだけ安心した。
それにしても、楊香の唇はつやつやでなかなか、キスしがいがあるなあ。
…って、僕はなんてことを考えているんだ。僕には心愛ちゃんがいるのに、つい妖艶な楊香に目がいってしまう。
そこが僕の悪いところだ。

「ん〜」
彼女は、向きを変え右隣にいる魁利の方を向いた。
「寝てるよ」
魁利が言った。
「んー、どうしようかな。このまま目が覚めなかったら、僕の家に連れてこうかな」
「承知!」
魁利と楊香が突然姿勢よく、びしっとその場に立つのと同時に敬礼した。
「そのためにも、早く博人!私にご褒美、ほらっ!」
そう言って、楊香は目を閉じながら顔を近づけてきた。
「はあ…仕方ないな」
どうやら、僕がキスするまで楊香は性懲りも無く強請ってきそうだ。
僕は、楊香の額にキスするつもりだったけれど、それを楊香は許さなかったので仕方なく唇にした。

その時、運悪く彼女が目を覚ましてしまった。そしてあろうことか、こちらを向いてー
「ひろくん?ひろく…っ!!」
彼女は目を見開いた。まるで彼女の時間だけが止まってしまったかのように、彼女は固まってしまった。
「あ、いや、その、これは…事故!」
どんなに弁明しても彼女の曇った顔は晴れることがなく、彼女は勢いよく立ち上がり切なげに空を見上げた。
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